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- バックグラウンド・インタビュー「香を紡ぐ」
- 第18回：株式会社菊屋 宮崎浩彰社長
《２》
「会社に入ってみたら、職場の空気も今ひとつ。そして財務的にも苦しい。これはもう数年で改革しないとどうしようもなくなる、という状態でした。バブル後の後遺症ですよね。店舗を出すにも莫大なコストがかかっていて、ペイできなくなっていたのです。１週間のうち、半分は銀行にいました。あとの半分は本社で効率化を推進すべく作業のシステム化を進め、また現場で販売員と話し、スタッフの意識改革をしました。リストラもしました。人を切るのは苦しいことでした。経営コンサルタントにはそこを揶揄されて『殺し屋』とまで言われました。それまでの私は、目立った苦労をしたことがなかっただけに、辛い数年でした」
しかし、宮崎社長の思いきった改革は功を奏しました。社長自身も「人を大事にする経営」に転換していったのです。
「それでもついてきてくれる人のことを大事にしよう。一生懸命頑張ってくれている末端の人たちの意見をトップにあげていき、トップが末端にまで下りて汗をかくことが大事だと実践するようになりました。マイナスから学んだことを、経営に取り入れていこうと」
今、菊屋は女性が多い会社になりました。315人中、男性は幹部も入れて16人だけ。
「女性の雇用が叫ばれる昨今ですが、会社をよくしていこうという自然の流れのなかでそうなりました。部長、次長、課長。一人の部長以外は全員女性で、取締役にも一人、女性がいます」
また100人近くがパートの主婦ですが、福利厚生は社員と同じ。産後の復職率も高いそうです。65歳を超えても働くことができ、最高齢は80歳だとか。
「18~19歳から80歳までの人たちが働いていて、楽しい雰囲気ができる。家庭でも和食器は女性が中心になって選ぶことが多いでしょうから、自然な流れなのですね」。
高齢のスタッフにこれまでの古き良き日本の風習を学び、若いスタッフに今の流行や生活スタイルを教えてもらう。そんなやりとりが菊屋の内側で良い循環を生んでいるのかもしれません。
《3》
和食器は日本最古の製造業で、人間の食を支え、生活に欠かせないもの。しかし1980年に約13,000社あった会社が2015年には約2,600社に減ってしまいました。
それでも宮崎社長は「器は絶対に必要なもの。日々の生活を豊かにするもの」と信じ、周囲が安価な中国製商品にシフトする中で、逆に日本製にこだわり、日本製の中でも質の良い商品を深堀していきました。
「日本には伝統として素晴らしい焼き物もたくさんあります。だから、国産100%にこだわっているのです。実際に窯元に毎年、買い付けにも出向きます。ハイエースの10人乗りを借りて、私が運転して１週間、10件くらいの窯元を巡るのです。器を焼くには黒煙が上がるので、かなり山奥でしかできない作業ですから、まあ、あちこち行きますよ」
そのバイタリティがスタッフの信頼をまた得るのでしょう。
「生活を豊かにする」という理念の一環で、置いてみようと思ったのも「お香」でした。
「昔は仏具屋さんで買ったお香ですが、仏具屋さんも減り、どこで買ったらいいのかわからないという人もいます。ただ、お線香を置くのは少し抵抗がありましたが、お客様からのニーズがありました。それなら食器と一緒に、女性が楽しめるもの、生活を豊かにするという意味で、香りのものとして置いたらと思ったのです。香りは心を盛り上げたり、落ち着かせたり、様々な用途があります。今は店頭のメインの場所に、香立てなどと置いたりしています。小皿を買って香皿にする方もいる。香炉は陶器のものが多いですし、実はとても菊屋とは親和性があったのです」
ちなみに宮崎社長が好きなお香は、白檀と伽羅。
「すっと心が落ち着きますね」
「生活を豊かにする」という思いで一致した、器とお香。これからも器を愛する人たちが香を楽しみ、香を愛する人が器を大事にする。そういう良きつながりが日本の暮らしを彩ることでしょう。
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取材・文 森 綾
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。
92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
最新著書は、「大阪のおばちゃんの人生が変わるすごい格言一〇〇」
撮影 山口宏之
