鎌倉・長谷の駅にほど近い、由比ヶ浜通り。観光客がそぞろ歩くこの街にある「鎌倉清雅堂」。南明実さんは25年ほど前、新潟にある「清雅堂」のアンテナショップとして、ここを始めました。
錫や銅の美しい工芸品の中に控えめに漂うのは、白檀の香り。
南さんがこの香りを選ぶ理由を伺いました。
長谷から若宮大路へと抜ける由比ヶ浜通りには、ビーチファッションの店と並んで、骨董やアンティーク小物、古くからの刃物専門店やお米屋さんなどが並びます。小町通りのようなひしめく賑わいもなく、そぞろ歩きに相応しい場所です。
この地で25年以上。南明実さんは、鎌倉清雅堂を営んできました。
きっかけは新潟でのご縁から。
「もともと、工芸品が大好きで、新潟へ遊びに行った時に紹介してもらったご縁で、清雅堂にたどり着いたのです。錫や銅でできた製品は、一般家庭にはあまり馴染みがないかもしれませんが、長く使えて、経年変化が楽しめるもの。鎌倉は、大仏様や洋館などに金属の工芸品がかなり使われています。それも歴史とともに根付いているでしょう。それで、こちらでアンテナ・ショップを開く話があっという間に進んだのでした。本当にご縁としか言いようがないですね」
当時まだ20代後半だった南さん。工芸品への情熱があふれていたのでしょう。
「その当初はまだ高校生だった息子さんが今は社長になっておられます。海外のアートフェアにも出展されたり、ロンドンのマンチェスター美術館にも所蔵されたり。彼らは芸術家であり職人なので、こつこつ手仕事でやっていますから、ビジネスとして大きくすることはありません。でも、このアンテナショップで、東京、神奈川、埼玉と関東圏の方々には製品をお知らせすることができます。高級飲食店の酒器として使ってくださっているところもあります」
酒器もさまざまな形が。一輪挿しやお香立てもあれば、大きなものはワインクーラーとしても使えそう。日常の茶器などにも、一つ取り入れるだけで、奥ゆかしい豊かさが伝わってきそうです。
鎌倉清雅堂は、1階と2階があり、2階は大きなテーブルもあるので、ゆっくりと品物について語り合うこともできます。
そんなゆとりのある空間に漂うのは、白檀のお香のほのかな香り。
南さんは、この白檀の香りが好きなのだそう。
「香りと脳の働きを研究している大学の先生にお会いしたことがあって。いろんな香りを嗅いでもらって、脳波を調べたら、白檀を嗅いだときの脳波が一番安定していたそうなんです。もともと、白檀の香りが好きでしたが、それを聴いて、さらに好きになりました。変な抹香くささがないし、邪魔にならないし、何より上品ですよね」
ずっと使い続けているのが「源氏山」。
「源氏山はちゃんと香木が練り込まれているのに、値段もお手頃で、日常遣いに良いと思います。
小町通りにある鬼頭天薫堂さんとは20年以上のお付き合いで、以前、香台を作って置かせてもらっていたこともあります。うちでも香台の扱いがあるので、そうすると、お香も置きたくなって、コロナになるまでは売ったりもしていました。爽やかさもある香りなので、夏に向けて需要があります。お仏壇がなくても、買っていかれましたよ」
金属でも温もりを感じる手の込んだ作品が揃う空間に、ほのかに漂う「源氏山」は、とてもしっくりきていました。目に見えない香りが、間違いなく作品を引き立てているような。
鎌倉で、鎌倉の地の名を冠した香りを味わうのも、また乙なもの。
訪れた思い出に、香りを連れ帰るのも、良いかもしれません。
●鎌倉清雅堂
〒248-0016
神奈川県鎌倉市長谷2-5-39
TEL:0467-23-6121
FAX:0467-24-6671
kamakuraseigado@leaf.ocn.ne.jp
営業時間:10:00 ~ 18:00
定休日:水曜日
公式ホームページ
https://kamakuraseigado.com/
photo by Yumi Saito
http://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori