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中東の文化の香りに惹かれ、エジプト、トルコでバレエを踊る
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  • 中東の文化の香りに惹かれ、エジプト、トルコでバレエを踊る

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 4歳でバレエを始め、モナコ、ニューヨークで学び、エジプトのカイロ国立オペラバレエ団ではファースト・ソリストに。現在は、トルコ国立オペラバレエ団でソリストとして活躍する落合リザさん。愛犬のリチャとともに帰国された時間に、お会いすることができました。
 中東の居心地が好きだというリザさんは、香りにも自分らしさ、濃やかさを求められているようです。

バレエダンサーであっても、人生はバレエだけじゃない

 長い黒髪にすっと伸びた美しい首筋。ハリー・ウィンストンのダイヤモンドがこれほどさりげなく似合う人もなかなかいないでしょう。落合リザさんは、たくさんの人が埋めく東京でも、ひときわ存在感があります。
 この日は、トルコから一緒に帰国したという、愛犬のリチャと一緒でした。リチャは、黒いプラダのケージのようなバッグから、ちょこんと首を出しています。目がクリクリで、誰が見ても可愛い!と言ってしまうようなトイプードル。

「日本の航空会社はまだペットと一緒に乗ることはできませんが、トルコ航空は検疫の書類をきちんと出せば、6キロまでは大丈夫なんです。リチャとはどこにでも一緒に行きたい。先日は、なんと舞台にも出演させてもらったんですよ」

 落合さんのブログに、衣装を着たリチャの姿が。そして舞台用の衣装を身につけた落合さんも格別に輝いています。

「キラキラが好きなんですね。だからキラキラの衣装を身につけて踊れるというのも、バレエの好きなところです」

 彼女がバレエの世界に足を踏み入れたのは4歳のとき。その後、16歳のとき、モナコ王立プリンセスグレースバレエアカデミーに入学。その年に、ブルガリアで開催される「ヴァルナ国際バレエコンクール」のジュニア代表となりました。翌年にはアメリカへ。ニューヨークのジョフリーバレエスクールに留学し、またその年に「オーランド世界バレエコンクール」で最年少ファイナリストになっています。若い頃から一気に才能が花開き、バレエの道を直向きに進むことになりました。

「2006年にはエジプト・カイロ国立オペラバレエ団に入団しました。その後、日本に一旦帰国しましたが、トルコに行くことになったんです」

 もはやどこでバレエをするのか、世界の中でいくつかの選択肢はあったでしょう。でも落合さんは、トルコを選んだのです。

「中東が好きなんです。モスク、アザーンといったイスラム文化に惹かれるものがあって。遺跡も好きなので、エジプトにもいましたけど。トルコは住んでみたいな、と。1回下見に行ったら、素敵な国でした。バレエダンサーであっても、人生はバレエだけじゃないですから」

 トルコ国立オペラバレエ団では、国家公務員の待遇で大切にされています。

「終身雇用なんですよ。だから60何歳かまでいられて、その後は年金が出ます。他の国と比べてもトルコの方が待遇が段違いに良いんです。ありがたいです。外国人は私以外にもブラジルの人もいるし、トルコ人よりも多いくらいです。これもね、その時の政策によるので、幸運ですね。トゥシューズも、日本だと自分で買うらしいですが、何足でも支給してもらえます」

 日々のスケジュールも追い立てられるようなハードさはありません。

「朝起きて、まず動画配信を30分やって、その後、カフェに行って、朝ごはん。コーヒーとクロワッサンですね。それでイヌの散歩に行って、そのまま出勤します。リハーサルして、お昼は食べないので、夜帰ってきて、向かいに住んでいる同僚が作ってくれるご飯を食べています。うちには一人、お手伝いさんがいますが、私はキッチンに立つなと言われているんです。料理はできないので。たまにつくったら『あなたのキッチンで何か爆発でもしたのか。二度とやめてくれ』と、お手伝いさんに言われました(笑)」。

落合リザさん

やりたかった役を射止めたのは、同僚と仲良くするコミュニケーション能力も必要だった

 気取りなくあっけらかんと、なんでも話してくださる落合さん。今回の日本でも個人レッスンをしていましたが、タイにも指導に出かけていきます。外務省認定の日タイ修好記念公演では主演でゲストに呼ばれました。

「年齢的な体の限界もありますから、レッスンもしています。日本の人たちにはリモートで教えることもしています。バレエ団との契約がありますから、ステージで踊ってはいけないのですが。レッスンは世界のあちこちでやっています。フィギュアスケートやヒップホップダンスをやっている人に教えたりしています。劇団四季や宝塚歌劇に入りたい人などが多いですね」

 7月は日本に戻り、8月がツアー。トルコでの公演のシーズンは9〜10月スタートで、5月まで。しかし、すべての公演がほぼ満席なのだとか。

「本当にバレエに対する意識が日本とは違いますね。でも、日本で広めるのは難しいんだろうなあと思います。日本の文化じゃないし、興味が湧きづらいでしょう。ある程度知識がないと楽しめないですから。これは個人的な意見ですが、一部の人たちの特別に楽しめる文化というものがあってもいいと思うんです」

 今までで一番好きな演目は『グレイト・ギャッツビー』。

「『グレイト・ギャッツビー』のヒロインをやりたくてやりたくてしょうがなかったので、キャスティングされたのは最高に嬉しかったです。親も見にきてくれました。それに、犬のリチャも出たんですよ」
 どうしてもやりたかった役をやれた幸せ。しかも、愛犬も舞台に。そこに選ばれた理由を、彼女はとても冷静に分析していました。

「同僚のみんなと仲良くしていたからかな。でも結局、みんなと仲良くできるかどうかって、すごく大事なことなんです。どれだけ敵をつくらないか。だって、バレエが上手い人はすごくいっぱいいますから。私は自分がバレエが上手いとは思わない。運がいいんです。たまたま、選んでもらえた。もう一つは、コミュニケーション。どうやったら好かれるか、それはすごく気をつけています。それと、今、どのポジションが足りてなくて、監督が変わったら、その人はどんなカラーを求めているのか。八方美人じゃないけれど、柔軟に対応していく能力って大事だと思います」

 自分を自在に表現するために、本当にやりたいことをやるために、彼女が見えないところでしている努力の多さが見えてきます。

落合リザさん

ゼラニウム。レモングラス。土地によって香りの感じ方が違う

 中東が好きだという彼女は、その街のスパイシーな香り、フルーティーな香りにも愛着をもっているようです。

「おしぼりに使う、コローニュ。レモンのような香りが気持ち良いです」

 自分で使う香水も、華やかなもの。

「夏はシャネルNo.5です。冬はバカラルージュ540。バカラルージュ540はすごく好きな香りですが、甘いでしょう。砂糖を焼いたようなキャラメルのような感じ。冬はそういうのが好きです。それから、寝るときは少し抑えてSHIGETAのオイルを使っています。エッセンシャルオイルが入っていて、筋肉を安らげたりするようなものも。マッサージに行くときは、ゼラニウムの香りを選ぶことが多いです」

 レッスンでタイに行くと、大好きな香りがあるそう。

「レモングラス。日本のレモングラスって、あまり匂いがしませんよね。向こうのレモングラスはとても強く香ります。でもそれがいいんですよね。香りの感じかたも、その土地の気候風土でかわってくるんでしょうね」

 世界のあちこちに居場所を持つ落合さんにとって、その気持ちをアップさせたり、落ち着けたりする香りは欠かせないものなのでしょう。
 バレエをやっていてよかったですか、と尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「バレエをやらなきゃよかった、と思うことももちろんありますよ。でも、テレビや雑誌など、バレエをやっていたからできた経験はたくさんあります。それと、続ける力、精神的な強さを身につけられたことは、バレエをやっていてよかったことですね」

 隣でリチャもバッグの端っこに首をのせて、彼女の話を理解するように瞬きしていました。落合さんの発している潔さには、バレエで培った強さとしなやかさがあるのです。

落合リザさん


photo by Yumi Saito
http://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori

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