当たり前だったり、見過ごしていたりする日本のおもてなしやサービスの文化。グローバルな視点から 見れば、かけがえのない素晴らしいことがたくさんありそうです。神楽坂「Terakoya Kagurazaka」は、世界に誇りたい日本のそんなあれこれを1回ごとに学べる洒落た講座がいろいろ。今回は即席に味噌汁を楽しめる『味噌玉づくり』を見せていただきました。歴史的な古民家で味わう味噌のふくよかな香りに、心があたたかくほぐれます。
国の登録有形文化財となっている神楽坂の古民家・一水寮。ここは昭和26年に当時の大工寮として建てられました。 格子戸や意匠梁。細部まで丁寧に建てられた空間の2階で、月に2〜3回の割合で開催されているのが「Terakoya Kagurazaka」のワークショップです。
主宰者の佐々木みみおさんは、大手ファッションメーカーでブランド設立などを手掛けられた人。この 「Terakoya Kagurazaka」を始めて7年になります。
「長年、バイイングなどで海外を回るうち、日本にある伝統工芸や匠の技のポテンシャルの高さが世界的に賞賛に値するものだと気づきました。しかし、知性と奥ゆかしさのある日本人はプレゼンテーションが下手。国内での伝承も、うまくいっていないケースもあります。そこで僕は、敷居を低くし、洒落た形で日本の伝統文化を国内外に広めていけたらと思い、その一歩として、まずここに寺子屋形式のワークショップを開きました。特に日本人のおもてなしやサービスの具体的な形をわかってほしいですね。」
金継ぎ、苔玉づくり、日本茶、薬膳懐中汁粉、しめ縄づくり、小唄と日本酒。1回ごとの講座は、興味のあるものだけ参加することもでき、Instagramのメッセージで申し込むことができる気軽さ。
「お一人で参加される方もいれば、カップルで、お友達と、親子でという方もいらっしゃいます。 ただあまりたくさんの人数は入らないので、気になる講座を見つけたら、早めに申し込んでいただけるといいですね」。
この日は、味噌玉づくり。味噌や餡子など日本の和素材を楽しくお洒落に伝えている金子道子先生に、味噌の種類や美しいトッピング素材について教えていただきます。
「一般によく食べられている味噌は大きく分けて三種類、米味噌、麦味噌、豆味噌。
全国的にシェアが多い信州味噌などの米味噌、九州地方の芳醇な麦味噌、豆味噌は二夏二冬と呼ばれる長い熟成期間を経て作られる八丁味噌などを思い浮かべてもらえると良いですね。 その他日本には沢山の郷土味噌があり、沖縄地方では空豆味噌や蘇轍味噌という珍しい味噌もあります。今日は、まず信州味噌で味噌玉をつくっていきます」
味噌玉は、味噌に昆布や鰹、いりこや椎茸などの粉末や顆粒出汁を混ぜて丸めるようです。
「私は北海道の出身です。1個10g見当で作りますが、千葉育ちの夫はそれ以上だと少し 『しょっぱい』と言います。出汁粉によっても変わるのでお好みで量は加減してくださいね」
味噌玉をつくるときの味噌選びのポイントは、米、大豆、食塩などシンプルな材料で作られた、国産原料の添加物のないものが良いそう。
「生みそや天然醸造、手造りみその表記があり、発酵中を示すバルブ(空気穴)がある パッケージのものを選ぶのがオススメです」
なるほど、発酵は菌も、良い香りも育てているようです。
さて、味噌を丸めたら、今度はトッピングです。このトッピング次第で様子がとても可愛らしくなります し、お湯で溶かして食べたときの味もしっかり変化します。
「今日は全国から18種類の乾物を取り寄せました。京都のぶぶあられ、比叡ゆば、吸い口に愛媛の柚 子の皮、ピンクの丸いのは会津の志ら玉麩。お湯戻しの早い乾物だとOKなので、私は余ったお野菜を干して自分でも作ります。薄切りの大根、かぶ、地元・流山産の青パパイヤなど。ローリングストックとし ても非常時の常備菜としても備えておくといいですよ」
彩りの良い乾物がずらりと並ぶのは、まるでおせち料理のよう。 みなさん、思い思いに丸めた味噌にトッピングしていくと、今度はトリュフショコラのような可愛いルックスになりました。
「密閉し冷蔵庫で3日ぐらい、冷凍すれば1ヶ月は持ちます。1個をお椀やマグカップに入れ、 お湯を150ccぐらい入れて飲むと、即席にお味噌汁が楽しめるんですよ」
実際にお湯を入れて飲ませていただくと、味噌のふくよかな香りと滋味あふれる味わいに寒さも忘れます。煮てつくるお味噌汁よりも、幾重にも重なるような風味が出るのです。ちなみに味噌の曾、曾孫の「曾」という文字には”重ねる”という意味もあります。
「お味噌に含まれる”国菌”である麹菌、乳酸菌、酵母菌は加熱に弱いので、こうやって飲む方が煮立てるより味噌本来の味と滋養が楽しめるんですね」
簡単なのに、腸活も気軽にできるなんて、味噌玉の味噌汁はなんと素晴らしいのでしょう。
金子先生は、日本史のなかのこんな味噌のエピソードも教えてくださいました。
「味噌は戦国時代にも活躍したと言われています。 よくすり潰した煮大豆に麹と塩を混ぜ布に包み、兵士の腰に吊るし行軍することで 戦地に着く頃には発酵熟成し味噌が出来る。これが武田信玄が発明した”陣立味噌”です。 兵士は被っていた陣笠を鍋がわりにし、陣中食とし味噌汁を飲んだそうです。 また焼味噌を1食ずつ球状に丸めて海藻や野草などを混ぜ込んだ”元祖味噌玉”もあったそうですよ」
戦国大名にとっても味噌は自軍の強さを左右する大事なものだったんですね。
ひょっとしたら、古の人々は、私たち以上に味噌のミラクルな力を呼び起こせたのかもしれません。日本各地に深く根付く味噌の味わい方、もっともっと知ってみたくなりました。
●Terakoya Kagurazaka
instagramのアカウントで情報発信、参加の受付もしています。
https://www.instagram.com/terakoya31/
photo by Yumi Saito
http://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori