1階には、叔父が寝ている離れと、ガレージが続いていた。ガレージの奥に、電気系統のメーターやブレーカー、なにかのモーターみたいなものがあった。
母には弟と妹がいて、二人とも当時は20代だった。
ガレージには、営業担当だった叔父が親にせがんで買ってもらった車があった。
ある日、叔父が車で出ていって、ガレージで遊んでいるときのことだった。
当時は「蝋石」というものがあって、それで地面に絵を描くのも、しなくてはならない遊びのひとつだった。工場にはチョークもあり、それも使えた。
へのへのもへじを描いてリボンをつけ、女の子にして悦に入っていると、チカッチカッと、モーターから火花が見えた。
「え」と立ち上がった。
ラッカーやシンナーを扱う工場では、絶対に火気厳禁である。爆発するのだと大人たちが言っていたのを思い出した。
どうしよう。火事になる。
そこへ叔父が戻ってきた。私は叔父のことをおっしゃんと呼んでいた。
「おっしゃん、火事になる。火事になる」
「何言うてんねん」
「火ぃが出るねん。火ぃが出るで」
私は信用してもらわなければと必死だった。叔父が信用してくれなさそうなので、工場へ駆け上がり、おばあちゃんにも言った。「火ぃが出るねん」。おじいちゃんにも言った。「火事になるで」。
誰も信用してくれないので、涙が出てきた。でも、言い続けた。
皆、不思議に思って下に降りてきた。
「あそこ。あそこから火ぃが出るねん」
「出てへんけどな」
「さっき、出てん」
大人たちは半信半疑で、泣く私を見ていたが、やがて「念のために電気屋を呼ぼう」ということになった。
電器屋さんは、すぐにやってきて、見てくれた。
「漏電しかかってました。ほんまに危なかったですわ」
その言葉に大人たちは目を白黒させた。そして、叔父は私の肩に手を置いて言った。
「あやちゃん、おおきに。ほんまやったな」
ほんまやった、という言葉が、私はただただ嬉しかった。
「うん、見たもん」
でも、火花を見なかった大人たちはこう言った。
「あやちゃんはなんか見えるんやな。神さんの子かもしれんな」
ありがとう、おおきにとみんなに感謝されて、私は不思議な気持ちだった。
そしてこう思った。
…別に神さんの子ちゃうで。ほんまに見ただけやで。