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  • その2「町工場パラダイス」

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⚫︎火花

 1階には、叔父が寝ている離れと、ガレージが続いていた。ガレージの奥に、電気系統のメーターやブレーカー、なにかのモーターみたいなものがあった。
 母には弟と妹がいて、二人とも当時は20代だった。
 ガレージには、営業担当だった叔父が親にせがんで買ってもらった車があった。
 ある日、叔父が車で出ていって、ガレージで遊んでいるときのことだった。
 当時は「蝋石」というものがあって、それで地面に絵を描くのも、しなくてはならない遊びのひとつだった。工場にはチョークもあり、それも使えた。
 へのへのもへじを描いてリボンをつけ、女の子にして悦に入っていると、チカッチカッと、モーターから火花が見えた。
 「え」と立ち上がった。
 ラッカーやシンナーを扱う工場では、絶対に火気厳禁である。爆発するのだと大人たちが言っていたのを思い出した。
 どうしよう。火事になる。
 そこへ叔父が戻ってきた。私は叔父のことをおっしゃんと呼んでいた。

「おっしゃん、火事になる。火事になる」

「何言うてんねん」

「火ぃが出るねん。火ぃが出るで」

 私は信用してもらわなければと必死だった。叔父が信用してくれなさそうなので、工場へ駆け上がり、おばあちゃんにも言った。「火ぃが出るねん」。おじいちゃんにも言った。「火事になるで」。
 誰も信用してくれないので、涙が出てきた。でも、言い続けた。
 皆、不思議に思って下に降りてきた。

「あそこ。あそこから火ぃが出るねん」
「出てへんけどな」

「さっき、出てん」

 大人たちは半信半疑で、泣く私を見ていたが、やがて「念のために電気屋を呼ぼう」ということになった。

 電器屋さんは、すぐにやってきて、見てくれた。

「漏電しかかってました。ほんまに危なかったですわ」

 その言葉に大人たちは目を白黒させた。そして、叔父は私の肩に手を置いて言った。

「あやちゃん、おおきに。ほんまやったな」

 ほんまやった、という言葉が、私はただただ嬉しかった。

「うん、見たもん」

 でも、火花を見なかった大人たちはこう言った。

「あやちゃんはなんか見えるんやな。神さんの子かもしれんな」

 ありがとう、おおきにとみんなに感謝されて、私は不思議な気持ちだった。
 そしてこう思った。

 …別に神さんの子ちゃうで。ほんまに見ただけやで。

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