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  • その7「キンカチョウのゆくえ」

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⚫︎嘘のように舞い込んできた美しい小鳥

私にはもう一人、大事な年上の友達がいた。ともこちゃん、のりこちゃんという姉妹である。
この家族はメリヤス屋さんの大きな社宅に住んでいた。社長がいた家を預かっていたようで、広い庭のあるお屋敷だった。その後、そこに20件くらいあるアパートが建ったのだから、よほどの敷地があったのだと思う。
夏はそこの縁側で、おばちゃんがモロゾフのプリンの空き瓶をコップにして、カルピスを作ってくれた。

その家は、ジュウシマツを飼っていた。大きなカゴのなかに6羽も7羽もいた。

「なんぼでも卵産んで増えるねん」

と、のりちゃんは言った。私は羨ましいなあ、と、巣のなかの卵を見つめていた。

家に帰って母にその話をすると、母が父に伝えた。父は「生き物を飼うのは命の大切さがわかるからいいことだ」と言った。ジュウシマツを飼ってもらえるのかと思ったが「あれは増えすぎる」と却下された。
父は人と同じが嫌だったのかもしれない。

そんなある日、鮮やかなオレンジのくちばしをした美しい小鳥が庭に舞い込んできた。父がそれを虫取りの網で捕まえた。

「なんていう小鳥やろう」

「綺麗やなあ」
体は上がグレーで、おなかは黒い毛に白い水玉模様があった。今、インターネットで調べてみるとそこはストライプが多いようだが、この鳥は水玉模様だった。

「飼うならつがいで飼わないかんやろう」

その小鳥を父と千林商店街にあった小鳥屋さんにもっていき、調べてもらった。

「キンカチョウですね。珍しい鳥ですよ。どこで手に入れられたんですか」

「飛んできたんです」

小鳥屋の若い主人はあらゆる角度からその小鳥を見て言った。

「これはオスです。ちょっとメスを探して入れますね」

しばらくして、メスが入った、と連絡が入り、買いにいった。

メスのルックスはぱっとしなかった。

ほぼグレーで、顔のところだけ少し茶色と白だった。

「なんでオスのほうが綺麗なんやろう」

そんな疑問が湧いたが、誰も明確な答えをくれなかった。

私たちはキンカチョウをつがいで飼い始めた。

カゴの中を見ていると、オスだけが動き回って元気な気がした。

やがてメスは巣に卵を産んだ。

「うわー、卵や」

私は嬉しくて、キンカチョウの子どもがどんなふうかを想像した。しかし、それもつかの間、卵はある朝、なくなっていた。

「食べよったな」

父はそう言った。
なんということだろう、と、子ども心に私も弟もショックを受けた。産んだ卵を食べてしまう? 子どもを食べてしまう?
そういうことはよくあるのだ、と父は言った。

「卵から雛を孵せない鳥がいてるんや」
そのうち、メスの様子がおかしくなった。
ぷーっとふくらみ、巣の下にうずくまった。

「あ、いかんな」

餌は粟と、緑色の青菜の粉と水だった。
私は粟の香りをかいで、元気になって、と願をかけて餌入れにいれた。

しかし、メスはそのまま死んでしまった。
もっとびっくりしたことに、死ぬ前はあんなにふくらんでいたメスが、死んでしまったらまた元どおりになり、むしろ小さくなっていた。

私たちは悲しんで、父は庭のもみの木の下に死んだ小鳥を埋めた。
そして、新しいメスを買いに行って、またカゴに入れた。
恐ろしいことに、そのメスはまたすぐに死んだ。
両親は気味悪がって、もうメスを買いに行こうとは言わなくなった。

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