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  • その34「新月の日のラベンダー」

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●ドバイ国際空港午前4時

 飛行機は機体も綺麗で、CAは皆美しかった。エミレーツの評判の良さは、そんなところにもあるのかもしれない。お金持ちの集まり始めたドバイのエネルギーのようなものが、飛行機にもあるような気がした。
 機体は無事に午前4時半ごろ、ドバイに着いた。
 外はまだ暗い。しかし、空港に降り立ち、通路から出ると、もうそこは巨大なデューティーフリーがいくつも並ぶ、ドームのような場所だった。
24時間眠らないらしいが、朝は朝の様子を呈していた。
 レストランも様々な種類があり、カフェや、キャビアとシャンパンのバー、ハンバーガーショップ、中華のレストランなどよりどりみどり。そしてひとつずつが大きな空間だった。
 荷物はマドリードまで持っていってくれているはず。とにかく、隈なく歩いてみようと、歩き始めたら、お祈りを捧げるためのスペースもあって、キリムの上で、イスラム教の人たちがコーランを詠っていた。
 人生で初めて聴いた生のコーランだった。それは声の波のようで、巨大なドームの壁を伝って揺れながら広がっていた。空気に伝わる響きが、耳の奥を震わせる。
 人が本気で祈りを捧げる姿というのは、清らかなものだ。
 ふと、911の事件が頭をよぎったが、同じ宗教でも、いろんな人がいるのだろう。私はその前をお辞儀をして、過ぎ去った。
 と、デューティーフリーの一角から、とてつもなく強い香水が入り混じる香りが漂ってきた。
皮のような動物的な香り、湿った古い木のような香り、きつい蘭の花のような香り。人の汗のような香り。いろんな強い香りが入り混じっている。
 その棚を見ると、ずらりと見たこともない香水が並んでいた。
 瓶もそっけないものから凝ったものまでいろいろある。
 値段は異様に高く、250ドル、350ドル、500ドル以上といったものも並んでいた。
 その前を歩くだけで、クラクラしてくる香りだ。

「ああ、これがフェロモン系の香水か」

 突然、棚の後ろから、黒い口髭を蓄えた彫りの深い男性が現れた。
 マダム、と声をかけられ、立ち止まると、自らの胸のあたりにそのうちの香水の一つをスプレーし、私に「嗅いでみて」とジェスチャーで言った。

「No thank you」と笑顔で言って、私はそそくさと棚の前から去った。
 言葉が通じるなら、どういう香水なのか、ちゃんと聞いてみたかったが。

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