19歳のときにはニューヨークでの個展も成功。チャレンジは海外へも広がっていきました。
一緒にコラボレーションしたいというブランドやアーティストもどんどん現れます。
「GAKUのギャラリーでこういう香りがしたらいいなというコンセプトで作ったフレグランスもありますよ。アロマをやっている人がナチュラルな成分だけで作ってくれました。香りは人の行動パターンにも影響を与えるところが面白いですね」
さまざまな国、人との出会い。それをGAKU自身も受け止めて感じ、絵で表現しているのかもしれません。
佐藤さんは、海外でのGAKUの賢さをまた見つけています。去年の夏、香港での巨大インストレーションでのこと。
「香港で、日本語は通じないし、英語もそんなに喋れる人がいないとなったとき、あれ、これは僕も息子も同じ条件だなと思ったんですね。すると息子の方がたくましくて、勝手に現金をもって買い物に行っちゃう。どうするのかな、と離れて見ていたら、細かいお札を一枚ずつ出して店員さんの顔を見ているんです。そこでストップ、と言われるまで、ね」
佐藤さんの著書『GAKU,PAINT!』(CCCメディアハウス)を読んでGAKUのこれまでを紐解くと、絵を描く、展示する、ニューヨークへ行く、という節目はすべてGAKU自身の意志であったことがわかります。
「生まれたてのGAKUを腕に抱いたときの目の光の強さにただならぬものを感じましたが、まさに今は貴重な存在を預かっていると思っています。親は子供を管理しようとしたり、親の価値観をおしつける対象にしないことが大切です。大人の役割は子供の邪魔をすることでなく、子供の生まれ持った特性を発揮できる環境をつくることです。その時に「特性」が「個性」に転換されます。」
佐藤さんの福祉全体への思いも、GAKUのアートとともに大きくなっています。
「彼の作品が有名になることで、自閉症の人がもつ豊かな内面性とそれを表現する力があることが社会的に伝わるといいなと思います。障害者は可哀想な環境に置くから可哀想なんです。可哀想と決めるのは他者の価値観ですから。ただし、資本主義の中で継続していくためには、経済性も必要です。人生、計画通りにはいかないけれど、どこを向いておくかは大事です」
GAKUにとって絵は言葉であり、音楽であり、幸せのこもったエネルギーなのでしょう。そのエネルギーが届く場所はまだまだ世界中にありそうです。そしてそのエネルギーは、すべての人に本当の意味での多様性を考えさせてくれるのです。
制作風景写真は本人提供
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com