音楽による癒しと同様に、イムさんは香りにも癒しの効果があると考えています。
「私は本当に香りが好きで、その日重要な公演があったり、打ち合わせがあったりすると、それぞれの気分で違う香りを選びます」
日本といえば浮かぶイメージの香りもあるのだとか。
「香水で言うと、高田賢三さんのKENZO やイッセイミヤケpour homme。私はその香りを嗅ぐと、東京の夜の道が浮かびます。それと、昔、宿泊した『キャピタル東急』と言うホテルの香りに、当時の日本が刻まれています」
20年前。青年だったイムさんを捉えた日本の姿の中には、もちろん、日本の音楽もありました。
「私の人生におけるロールモデルは、坂本龍一さん。坂本さんに一度もお会いできなかったことがとても残念です。坂本さんもそうですし、日本人のアーティストには私のロールモデルとなる方が何人かいます。今、来ている服のデザイナー、イッセイ・ミヤケもそうですし、高田賢三さん、村上春樹さん、大江健三郎さん。その当時の日本のミドルエイジの男性が醸す雰囲気、オーラがあるような気がします」
本当に日本の文化に造詣が深いイムさん。そういう人が、韓国で国民勲章を受賞されたというのも、嬉しい話です。
「29歳のとき、大統領表彰も受けていますが、歴代最年少で国民勲章をいただけたことは、本当に嬉しい出来事でした。それに、この幸運を、日本での20周年で、日本の皆さんと分かち合えることもまた幸せです。私に起きたようなこの奇跡が、皆さんにも起きますように」
どこまでも他者を思いやる、その自然な思いやりが、イムさんという人の本質。歌は人で、人は歌なのです。忙しいとき、きついと思うとき。イムさんの、広がる海のような空のような歌声に心を預けてみてはいかがでしょう。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com