須田さん自身がリアリティを表現しやすかったのは、撮影した場所にも縁があったからかもしれない。
「私はできるだけ日常的な愛子を演じようと意識はしていました。それにこのロケ地が愛知県日進市というところで、私の出生地なんです。祖父母が日進市ではないけれどそちらの方面にいまして、一緒に遊ぶときに、この映画に出てくる牧場によく行ったんですよ。子どもの頃から馴染みのある場所で映画の仕事ができたということは、とても感慨深かったですね。バラエティやPV撮影などではなく、お芝居で戻って来られたということが。ちょっと地元に恩返しできたような気がしました」
しかし「ここに足を踏み入れてはならない」禁足地の大きな穴は、映画のためにあけたものだそう。
「映画のために、スタッフがあけてくださったんです。大がかりでしょう。日進市の皆さんがこの撮影にたくさん協力してくださいました。牧場の方々もそうですし、建設会社の方々も。私は重機を操縦するシーンもあるので、練習して教えてもらって。本当に動かすには免許が必要なので、手元だけ別撮りして仕草や上半身はまた別で撮ってというふうに撮影しました。撮影しているときから、壮大な感じは伝わってきていましたね」
モノクロームや影がこの映画を「この世のものではない」空気に包んでいる。ただ、グロテスクだったり、流血したりするシーンはないので、ホラーが苦手な人にも受け入れられそう。
「ファンタジーホラー、というジャンルになるんですが、何かが起きそう、怖い、という雰囲気は全体から醸し出されているけれど、世代を問わず観られると思います。『もし本当にこうだったら怖いよね』というジリジリくる怖さですね」
日本の各所に「禁足地」はある。その土地の言い伝え、風習、歴史的背景などから恐れられている場所だ。須田さんの地元にもあったそうだ。
「私の地元にも、ここから先に行ったらどうなっちゃうんだろう、と思うような場所がありましたね。東京にもありますよね。街中にふっと現れる路地裏とか、ビルの真ん中に突然現れる寂れた一帯とか。なんでここだけが残っているんだろう。大事に残されているんだろう、みたいな。都会だけにいっそうドキッとするかもしれない。そういうところに出逢ってしまうと、手を合わせたほうがいいのか、気づかないふりをしたほうがいいのか、悩みますよね。そういうときは、なるべく気づかないふりをしますが、その空間としっかり対峙してしまったときは、会釈をして、人だと思って接して、通り過ぎることにしています」
つまり須田さんは「目に見えない存在」があることを信じているタイプということなのだろう。
「目に見えない神様みたいなものは、なんとなく信じているのかもしれません。だから、今回の『男神』の世界も、理解できるような気がして。どこにでも神様って宿っている感じがするし。観光地のようなところで、木を祀ってあったりするじゃないですか。ああいうの、みんな触ったりするけれど、これがもし人だったらベタベタ触られたら嫌だろうな、って。だから私は触りません」。
映画『男神』は、遠藤雄弥演じる主人公の男が数年前に失踪した妻と、その後、さらにいなくなった息子を取り戻そうと異界へ飛び込んでいく。しかし巫女たちが追いかけてくる。その巫女の香りをかいでしまったら、もうこの世には戻って来れないという。
須田さんはその香りをどんなふうに想像したのだろう。
「あれはどんな香りなんでしょうね。自然由来の香りだということは間違いないでしょう。絶対、臭くもないでしょう(笑)。スッとした薄荷のような、吸い込みやすい香りなんじゃないかと想像しました。1回気絶しちゃうくらいの」
役柄ではない、須田さん自身が思う良い香りは「甘い香り」だそうだ。
「バニラのような甘い香りが好きです。今日はつけていないのですが、バニラのボディクリームを、自分の体臭にしようと思って、10年ぐらいずっと塗り続けています」
なんとそのボディクリームの香りが好きすぎて、SKE48を卒業するとき、メンバーにプレゼントしてしまったそう。
「同じチームの後輩たちに何かささやかなプレゼントをしようと思ったんですね。それで、いつもメンバーがリハーサルで踊った後とかに『亜香里さん、いい匂いがする』と言ってくれるから、よし、と思って。自分がいつも使っているボディクリームのハンドクリームバージョンをプレゼントしたんです。一応仲のいい後輩に相談したんですよ。『こんなことしたら気持ち悪い?』って(笑)。『気持ち悪いけど、めっちゃいいです。みんな絶対に喜びます』と言ってくれました。それで『私の匂いを忘れないでね』って」
普段は香りのギフトはしないという須田さん。
「香りのギフトって難しいじゃないですか。この人の好みじゃなかったらどうしよう、って気を遣います。だけど、卒業のタイミングでなら、いいかなって思ったんですよね」
ボディクリームでなく、気軽なハンドクリームだったところにも、須田さんの気遣いが表れている。ギフトにはストーリーが必要だと思わせてくれる、素敵なエピソードだ。