フレグラボ|日本香堂

人と香りをつなぐwebマガジン

  1. HOME
  2. ヒトサラカオル食堂
  3. 第35話 本日のお客様への料理『酒粕入り、白子と里芋のグラタン』
    1. 小説
  • 第35話 本日のお客様への料理『酒粕入り、白子と里芋のグラタン』

    1. シェア
    2. LINEで送る

🥂Glass 4

 扉を開けたのは、まさかの顔だった。

「竹内さん! まだ横浜にいらしたの」

 ワインレッドのキャリーケースは、これから大阪へ戻ることを意味していた。

「あの、あんまり横浜が良くて、もう1泊してしもたんですわ。それで、じっくり考えたんやけど」

「…」

 幸も恭仁子も固唾をのんだ。竹内の顔は晴れやかだった。

「ミツコさんの息子… ヒカルくんやったかな…。とにかく、年明けにいっぺん、会うてみようと思います」

「ほんまですか」

「DNA鑑定とか、今、簡単にできるんでしょう。それやって、僕の息子なら、これから、然るべき付き合いをしようかと」

 幸の目からポロポロと涙がこぼれた。
 天国のミツコは、この言葉を聞いただろうか。ヒカルはどんなに喜ぶだろうか。
 いろんなことが堰を切って涙になってしまった。

「あかん」

「え?何があかんのですか」

 竹内はせっかくの覚悟を否定されたのかと一瞬戸惑った。

 幸は人差し指で両目の下のラインを拭いながら言った。

「あかん。化粧崩れる」

 3人は笑い合った。いつまでもそのまま笑っていたいような、年の瀬のひとときだった。
 空が青い。
 笑い声の混じったオレンジとシナモンの甘い煙は、天へ天へと、彼女のところへと、昇っていくようだった。

第35話 本日のお客様への料理『酒粕入り、白子と里芋のグラタン』

筆者 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

イラスト   サイトウ マサミツ
*J-WAVEラジオ『TALK TO NEIGHBORS』の番組イメージイラストを2種類制作。
*『婦人之友』2024.4月号〜2025.3月号の表紙と目次の絵。
*絵本:『はだしになっちゃえ』『ぐるぐるぐるーん』他(福音館書店)『Into the Snow』他(Enchanted Lion Books)など多数の絵を手がけている。
*ホスピタルアート: 愛知医大新病院 他、現地で手描き制作。その他壁画、ウィンドウアート、ライブドローイングなど幅広く活動。個展も多数開催している。
Instagram:masamitsusaitou

  1. 3/3
  1. シェア
  2. LINEで送る

スペシャルムービー

  • 花風PLATINA
    Blue Rose
    (ブルーローズ)

  • 日本香堂公式
    お香の楽しみ方

  • 日本香堂公式
    製品へのこだわり