《4》
「忘年会はやっぱりビストロ・ドゥ・ミニオンでやらなくちゃね」
「そんなLINEが多美子から来て、有紗は戸惑った。こんなにやつれた顔で、と思ったし、海はすぐ泣くし…と。でも4人で会えば、何かが変わるような気もした。
有紗は洋三に相談し、日曜日の昼間を使わせてもらうことにした。洋三はこう提案した。
「僕が作るから、莉奈も海も、一緒にここにおったらええやろ」
有紗はグループLINEに書き込んだ。
「… そんな日曜の昼間でよかったら、ぜひみんなで会いたいです」
多美子、麻貴、未知は駅で待ち合わせたのか一緒にやってきた。多美子はクリスマス前らしく黒いワンピースに真っ赤なファーを襟元に巻いている。麻貴はモスグリーンのモヘアのセーターにラインストーンがきらきら光るクリスマスツリーのブローチを。そして春に花嫁になる未知は、いつぞや多美子に似合うと勧められたアイボリーのセットアップに、真珠のネックレスをしていた。
「華やかやなあ」
洋三は厨房からこちらを覗いて目を細めた。
有紗だけが炭酸水で、みんなはシャンパンを掲げた。
「乾杯」
「今年もおつかれさまでした」
「ほんと、疲れた〜」
ごくりとシャンパンを喉に落として、多美子が言った。
「それはそうと。結婚式楽しみね」
結婚前の女性は一番美しいというが、未知は本当に初めて4人が顔を合わせた頃の未知の10倍輝いていた。
未知は恥ずかしそうに微笑むと、厨房の前のカウンターにぽつんと座って絵本を見ている莉奈に声をかけた。
「莉奈ちゃーん。お願いがあるのー」
莉奈は驚いたようにこちらをみた。
「あのね、ブライドメイドになってほしいの。小さい親戚がいなくてさ。ドレスを着て、私の後ろを歩いてもらいたいのよ」
有紗は驚いて、莉奈のリアクションを見守った。
「私が」
「そう、莉奈ちゃんのドレスは用意するから。花嫁さんと同じような、可愛いのを」
「へえ」
莉奈の頬がみるみる赤くなった。そして、椅子を降りると、こちらにやってきて、未知のそばに立った。
洋三のいる厨房と、おそるおそる、有紗の顔を見た。
有紗も自分のことのように嬉しくなって、頬を赤くしていた。
「よかったねえ、莉奈ちゃん。楽しみだねえ」
「いいの」
莉奈は有紗の顔をしっかり見ていた。
「あったりまえじゃん」
やったー、と莉奈の両手が上がった。
有紗は、未知と、多美子と、麻貴の顔を交互に見て、ほっと安堵のため息をついた。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
厨房から、トリュフの香りが流れてくる。
「わー。ゴージャス」
くるみとチコリと白身魚のサラダ、そしてトリュフをふんだんに使ったオムレツがテーブルにサービスされた。
洋三が嬉しそうに言った。
「莉奈のことをそんなふうに思ってくださるお礼です」
有紗の瞳から、どうしようもなく一粒だけ涙がこぼれた。
To be continued…
★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。
作者プロフィール
森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。
92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら。
挿絵プロフィール
オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。
主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。