香りと聴いて、百音さんが自分に染み込んでいると感じるのは、ヨーロッパの木でできた古いホールに漂う香り。
「木の香りの中に、ちょっと時代を感じるようなものが混じっていて。あの香りは独特で、それを嗅ぐと、あ、帰ってきたな、といつも思います」
ヴァイオリンを背に旅を日常としてきた彼女には、その土地その土地に呼吸とともに感じるような香りがあるのでしょう。
「サンクトペテルブルクの鼻の奥が切れそうな冷たい空気の感じとか。あれは香りではないですが」
匂い、と言い換えれば、もっと好きな匂いがありました。
「私、猫人間なんですけど(笑)」
途端に優しい、年齢相応な女の子の表情になった百音さん。
「猫の頭の中に顔を埋めた時の、もふもふしてあったかい、なんともいえない匂いが好きです。
1〜2歳の頃は、母の実家に猫が9匹いたんです。子どもの頃は、顔を埋めて遊んでいました。今は、演奏会やツアーで家を空ける事も多いですし、ヴァイオリンの練習にならないので飼っていません。猫ファーストになっちゃうので(笑)」
インタビューの途中で、ふと百音さんが「人生からヴァイオリンがなくなったら、何をしていいかわからない」と真顔で言っていた顔と重なりました。
まだ21年の人生のうち、そのほとんどをヴァイオリンと共に生きてきた百音さん。しかしまだもっともっと大きな音楽の海が広がっています。彼女がどんなふうに漕ぎ出していくのか、新たな水平線をいくつ見るのか。旅する音色が豊かに満ちていくのが、本当に楽しみです。
ソロ・アルバム第2弾!
音楽と真正面から対峙し、奏でる一音一音に拘りぬいた全5曲。
服部百音『リサイタル』
2021年6月30日発売
定価:¥3,300(税込)
AVCL-84121
【曲目】
・プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80
第1楽章~第4楽章
・エルンスト:「夏の名残のバラ」による演奏会用変奏曲
・シマノフスキ:ノクターンとタランテラ 作品28
・ショーソン:詩曲 作品25 (ヴァイオリンとピアノ編)
・ラヴェル:ツィガーヌ
【演奏】
服部百音 (ヴァイオリン)
江口 玲 (ピアノ)-Except 5
【録音】
2020年11月29日~12月1日 埼玉、秩父ミューズパーク音楽堂
■オフィシャルHP:https://mone-hattori.com/
■Instagram:https://www.instagram.com/mone_hattori/?hl=ja
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。
東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
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