しかし「作り方を教えて欲しい」という内田さんの言葉にその人は首を縦に振らず、「自分でやってみたら」と、かわされてしまいます。
作ることを教えてくれる先生を探し、やっと見つけたのは名古屋在住の安達正浩さん。内田さんはすぐに名古屋への引っ越しを決意しました。
「師匠の工房をシェアさせてもらい、作っています。木を切るときに立ち籠める香りが僕は好きです。その香りで木を判断したりします。檜なら、檜の香りがあたりに立ち込めます。銀杏の木は、猫のおしっこみたいな匂いがしますね(笑)」
最初に作ったものは自分で。
そして2台目のクラヴィコードは世界的な音楽家のもとへ。
「2台目は坂本龍一さんが買ってくださいました。今、3台目を作っています。京都の清水寺に奉納し、その後、自分の演奏活動で使っていく予定です。平和の祈りを込めて、音を届けていきたいのです」
8月9〜16日、清水寺で展示もするそう。清水寺へ奉納しようという思いは、未来を考えてのこと。
「現存する最古のクラヴィコードは1543年のものだそうです。ちゃんとメンテナンスをすれば、450年以上生きる楽器なのです。その時代の空気、思いを今の僕たちに伝えてくれている。僕は楽器というのはそういうふうに思いを託して生きていってもらうものだと思います。ただ売るだけのものではないのです。清水寺へ奉納するのは今、平和を祈る思いを音楽に昇華するということ。僕が弾けなくなった時は、また清水寺に戻して、引き継いで行ってもらう道筋もあればいいなと。今は東洋の木材で西洋の楽器を作っている。太古の昔は西洋のものがシルクロードで東洋に来た。今度は僕がシルクロードを遡って演奏活動をしていきたいと思っています」
クラヴィコードの音色は、人の喋り声の半分くらいの小さな音。しかしそれを奏でる内田さんの思いは大きく深く、遠くへと届くものとなるのでしょう。
一台の楽器から始まる夢に誘われてみるのも、素晴らしい時間の過ごし方です。ふと、コロナ後の世界に生き続ける音楽は、こういうものではないかと、筆者も思ったのでした。
制作過程写真提供FEEL KIYOMIZUDERA
「silk road 祈りの道」
クラヴィコードの展示
8/9(月)〜8/16(月)10:00~17:00
会場:音羽山清水寺・経堂
公式instagram:@feel_kiyomizudera
https://www.instagram.com/feel_kiyomizudera/
※8/14(土)~8/16(月)のみ、10:00~21:00 & 奉納LIVE配信(22時から30分間 @instagram)
silk road / FEEL KIYOMIZUDERA
https://www.kiyomizudera.or.jp/news/silk-road.php
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 ヒダキトモコ
フォトグラファー。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS)会員。
米国で幼少期を過ごす。慶應義塾大学法学部卒業。人物写真とステージフォトを中心に撮影。ジャケット写真、雑誌の表紙・グラビア、各種舞台・音楽祭のオフィシャル・フォトグラファー。官公庁や経済界の撮影も多数。
https://hidaki.weebly.com