折しもこのインタビューが行われた日の朝、瀬戸内寂聴さんの訃報が駆け巡り、登紀子さんはテレビでインタビューを受けていました。
「私のシャンソンの師匠の石井好子さんと寂聴さんが同い年で仲がよかったの。そういうこともあって、私がデビューしたとき、雑誌の対談をさせてもらったんです。私は石井さんに『あなたは目が小さいから、アイラインは1センチくらい入れないとダメ、つけまつげは必ずつけないとダメ』と言われていたので、そういうメイクで行きました。そうしたら寂聴さん…当時はまだ瀬戸内晴美さんでしたけれど…『すごいまつげね、触らせて』って、触られたの(笑)。知るっていうことは触らないとわからない、と」
そのとき、瀬戸内さんは、今東光さんに「剃髪もしなくていいし、色恋を絶たなくてもいい。どっちでもいいけれどどうしますか」と言われて「絶ちます」とおっしゃったのだそう。
「それを聞いて私は『あなたほど色恋沙汰が好きな人にそんなことができたのですか』なんて言いました。すると『そういうことは自分の意志でできるものよ』とおっしゃって。
でもどうにもこうにもややこしくなってしまって、一般常識では解決できないから出家したんだ、とおっしゃっていましたね」
寂聴さんは「情熱がなければ生きていてもつまらない。『青春は恋と革命』。その情熱を失わないまま死にたいのよ」という言葉を残されています。
その情熱は、登紀子さんにも通じるところがあります。
「革命というのはね、それを起こす人たちと、それによって利益を得る人たちは別なのね。革命を起こしても、すぐに何かが遂げられるということはない。デモをやったって、何も変わらない。私は20歳の時にそれを悟っていました。フランス革命だって、民衆が勝ったはずだけれど、その後、ナポレオンが現れて、また民衆は戦争の犠牲になった。革命は一時の夏。でもその一時の夏は不要かというと、そうではないの」
登紀子さんの知性に裏打ちされた言葉は、これからもますます熱を帯びていくのでしょう。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。
東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
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