新型コロナですべてのライブ活動が自粛になったときも、藤巻さんは積極的に曲作りをしていました。
「北アルプス天然水のテーマソングになった『まほろば』を作るのに、その工場がある長野県の大町市に実際に行きました。コロナで世の中が止まったようになってしまって、みんないろいろ考えたことがあると思うんです。満員に電車に乗って、1日中スマホを見て、効率や合理性を優先して、なにを急いで生きているんだろうと。そういうタイム感で生きているのはどうなんだろうって。天然水の湧き出る自然豊かな場所へ行って、人間も自然の一つじゃないかと思い返したんです。自然のままの場所から帰ってきた自分、って都会にずっといた窮屈な自分とは違うじゃないですか。普遍的なものは自然にある。そういう気持ちになれたらいいなと思って作った曲でした」
藤巻さんが育った山梨も、そんな自然がいっぱいあるところ。しかもご実家では、桃を作っていらっしゃるのだそうです。
「実家から桃を送ってきてくれるんですが、地元の人って、僕も含めて、カリッと硬くて甘い桃が好きなんですよ。そういう桃を両親が送ってきてくれるんですけど、最近、気づいたことがあって」
それは、桃の実のなかにある、さまざまな香り。
「新緑の季節の後、花が咲いて、花びらが落ちて、小さな実がたくさんつく。すごい数がつくんですけど、花も実も間引いていって、大きな実を作るんですね。大人になってそういう作業を手伝うと、その時々に、葉っぱの香り、花の香り、実の香りと違う香りがするんです。最近、その送ってもらった桃を食べたときに、その時間軸の全部の香りを感じたんです。葉、花、実。途中途中の香りが複雑に、豊かにあるな、と。改めて食べながら、そういう桃の時間軸の香りを味わいました。生きている時間を大事にしないとな、とも感じた機会でした」
桃の実ひとつにそんな深い物語を感じることができる藤巻さんは、これからも私たちが見過ごしそうな瞬間を、はっとするような楽曲にして歌っていかれることでしょう。
「ずっと歌いたいという思いはあります。曲を奏でる、歌う、曲を作るということが、年々愛おしくなっています。尊敬するアーティストが表現を深めていく姿を見ると、そういうふうに歌っていけたらと思います」。
藤巻亮太さん 公式ホームページ
https://www.fujimakiryota.com/
【LIVE情報】
藤巻亮太主催野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2022」
10月1日(土)、10月2日(日) 山梨県・山中湖交流プラザきらら
Day1:奥田民生/岸谷香/竹原ピストル/中島美嘉/橋本絵莉子/藤巻亮太(acoustic)
Day2:真心ブラザーズ/MONGOL800/Salyu(×salyu)/小山田壮平(band set)/Saucy Dog/藤巻亮太(band set)
「Mt.FUJIMAKI」オフィシャルサイト:https://mtfujimaki.com/
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com