番組でモヒカンになったり、相当なんでも受け身にやってきた垣花さん。香りについても、その受け身な姿勢からこんな思い出が。
「香水を買ったことは、今まで生きてきて1回しかありません。しかも『EGOISTE』という、派手な男性が使うような香水を買ったんです」
シャネルのEGOISTEは、ビジュアル系のロックアーティストや、世のモテたい男性たちが愛用していたような強い香り。
「ある時、大好きだった男性にふられたばかりの女性と知り合って、付き合いたいなと思ったんです。すると彼女から出てきた条件に『EGOISTEを使うこと』というのがあって。多分、元カレが使っていたのでしょう。僕とは全然ビジュアルは違っていたようなんです。でもその香水を使うくらいで付き合ってくれるならと思って、使っていたんです。でも彼女のわがままを全部飲み込んで、2〜3ヶ月で終わっちゃいました」
彼女と別れた後、垣花さんの鞄の中で、その香水の蓋が開いてこぼれてしまうという事件が。
「薄茶色のシステム手帳の表紙がこげ茶になるくらい、中身までしっかりEGOISTEの香り(笑)。振り回すだけ振り回して、残ったのはEGOISTEの香り。あの香りを街で嗅ぐと、一気にその記憶が蘇ります。一生使いません!」
確かに垣花さんという人は、エゴイスト、という言葉からも遠そうです。
2019年、垣花さんはニッポン放送を退社。局アナではなく、フリーアナウンサーとしての一歩を踏み出しました。きっかけは「働き方改革」で、週休2日を取るよう、会社から言われたことでした。
「仕事やりたいから休まなくていいですと言ったら、そんなわけにはいかないと。だったら、働きたいだけ働いて報酬をもらうフリーランスの方がいいな、と決断しました」
2021年の4月からは『5時に夢中!』でメイン司会を担当することになりました。
「最初はカメラを正視するのも恥ずかしかったり、メイクさんに顔を触られるのも恥ずかしかったりしました。でも今は慣れました。テレビ局に入って、メイク室の鏡の前に当たり前のように座る自分に『どうなの』と心の中で突っ込むこともありますが(笑)」
朝は変わらず、『あなたとハッピー!』を月〜木曜で生放送。この番組は今秋15周年を迎え、8月の聴取率調査で初めて1位を獲得しました。
「僕は受け身な人間で、特別、世の中に言いたいこともないし、こういうアナウンサーになりたい、ということもないんです。ただ、喋るという仕事自体が好き。個性的な人と組んで、わちゃわちゃやっているのが好き。だから『あなたとハッピー!』で、リスナーに個性を作ってもらったような気がしています。こういう発言をしたらこういうツッコミが来るんだな、と教えてもらいました。だから、1位になったのは嫌われなかった、おまえ、居てもいいよ、というふうになったのかな」
強烈な個性をもった人との会話も上手に回すバランサーの役割として、この人の右に出る人はいなくなったということでしょう。全てに控え目に語る垣花さんですが、一つだけ、強い意志があります。
「長くやりたいですね。喋るという仕事を、なるべく長く続けたいと思います」
当たり前に、人の話を受け止めることの難しさは、垣花さんにとっては面白さであるのかもしれません。その役割はきっと、ますますいろんな場面で求められていくことでしょう。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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