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    第150回:伊東ゆかりさん(歌手)

《3》セクシーとか色っぽいと言われるのが嫌だった

 日本の歌謡界も、さまざまな世界の音楽のエッセンスが取り入れられていった時代。洋楽はビートルズが流星のように登場して、若者の音楽はフォークとグループ・サウンズへと移行して行きました。昭和でいえば40年代。歌謡曲の全盛期となっていきます。
 3人娘のなかでは、園まりさんが『逢いたくて逢いたくて』や『夢は夜ひらく』などを大ヒットさせていた頃。1967年、伊東さんは大ヒット曲となる『小指の想い出』と出逢いました。

「ポップスばかりうたっていたから『小指の想い出』は、曲調も詞もまったく違う世界でしょう。最初に聞いた時はうたいたくないなあと思って。『まりさんにうたってもらって』と言いました。最初の頃は歌っているとき、顔に出ちゃってたかも。失礼しました。セクシーとか色っぽいとか言われるのも嫌だったのね」

 ところがその感情の抑制がきいた歌い方がこの曲を生かしたのでしょう。今聴いても、とても洗練された印象で歌が伝わってきます。
 色っぽさを隠すから、かえって日本人的な色気が醸し出される。しかし彼女はステージでお客さんを喜ばせるようなことを言ったりしたりするのは、ずっと苦手だったそうです。
 その転機となったのが、数年前、世界一周する豪華客船『飛鳥』で乗船しながらうたうという仕事でした。

「中尾ミエさんに『あなたよく引き受けたわね。暗い顔してちゃダメよ。一歩部屋を出たらお客様に会っちゃうんだから』と言われて。そう言われると、どんどん乗るのが不安になっていました。乗ってみると、本当にステージでお客様が近いんですよね。何か喋らなくてはいけなくて、アドリブ、というわけではないけど、何か言ったら、わーっとウケたの。それでだいぶ自信がつきました」

 しかし、引っ込み思案な伊東さんにとっての最大の問題は、一歩客室を出るとお客様に会うというその状態でした。

「船の最上階に大浴場があるんです。空いてる時間を狙ってサウナに行ってみると、やっぱり空いている時間を狙ってくるお客様がいらっしゃる。最初は声をかけられても『はい』なんて俯いて答えていたんだけれど、だんだん顔を上げるようになりました。そんな感じで、お客様と話すことも大丈夫になっていったんです」

 やはりポップスをうたっている娘の宙美さんと、最近では一緒にライブハウスに出演する機会もできました。

「今年の9月に娘と一緒にコンサートをしました。彼女は私より度胸が座っていますね」。

《4》右から左へ流れてしまう、やさしい歌をうたいたい

 伊東さんの好きな香りはミント。ステージの前には、必ずその好きな香りの清涼感で、気持ちをリフレッシュするそうです。

「娘がお腹に入っていた頃からかなあ。ずっとミントが好きなんです。シャンプーもミント。ステージの前は薄荷オイルをシュッと嗅いだり、キャンディも薄荷好き。だから、缶に入ったサクマドロップでは、白いのから食べます。コールタールとかセメダインとか、ああいう人が嫌がる人工的な刺激臭も嫌じゃない。お線香でミントの香り、ってないですよね?」

 ステージが終わると、お化粧を落としながら、伊東さんはこう思います。

「ああ、お客さんが喜んでくれた。歌っていてよかった」

 大袈裟なジェスチャーや言葉がなく、ことさらに感情を込めすぎた歌い方でもなく。でもお客さんは、伊東ゆかりさんの歌に心を満たされ、懐かしい想い出にも浸り、良い気持ちで帰って行くのではないでしょうか。そこには70年もの間、ひたすら歌を観客に届けたいと純粋に思い続けた人の歌の力があるのです。

「私がうたいたいのは、一貫して、右から左へ流れてしまうやさしい歌。皆さんが暮らしている、さまざまな暮らしの背景に流れることができる歌です」

 そういえばBGMというのは、いつもBGMなわけではないのです。私たちは時々、何かしている手を止めて、ふっと聴き入ってしまうことがあるではないですか。伊東ゆかりさんの歌というのは、そういう歌なのです。

伊東ゆかりさん

衣装提供

衣装クレジット

hair make&stylist

Kazue Lu

  1. 3/3

[公式ホームページURL]
http://yumemiina.com

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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com


2022.12.5 written by 森綾
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