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    第151回:かの香織さん(シンガーソングライター)

《3》心身すべてを南インドでリセット。抜け殻になって見つめた人生の意味

 今回、ベストアルバムを作るという節目に当たって、彼女はやはり旅をしたいと思ったようです。

「3度目のインドに行きたいと思ったんです。初めての南インド、アーユルヴェーダの本拠地で、1ヶ月かけて自分の中のけがれをはらい、心身を全てリセットして、レコーディングに臨みたいと。やるなら本格的に、その土地のすべてに敬意を払って。」

 寺院を巡り、食事は全てベジタリアン。裸足で何キロも歩いたり、インドのハーブがたくさん入っている滝に打たれたり。

「みんな静かに黙って滝に打たれるのかと思ったら、『おお、神よ』みたいに叫んでる人もいたり、赤ちゃんを滝にうたせようとしていたり。すごいパワフルに滝に打たれようと必死になっていて、驚きました。インドは行くたびにある種のショックをくれます。初めて行ったときも、カースト制に驚いたりしましたし。今回は、1ヶ月いて、抜け殻になりました。いつも見る空が空でなく、いつも触れる水が水でないような感覚。命を見つめ直した旅でした。大事に生きていかないと、と思いましたね」

 よくインドの女性が付けているビブーティ、と呼ばれる額の印は、赤いハイビスカス、ヴァーミリオンの粉なのだそうです。かのさんもそれを塗ってもらい、サリーを纏いました。この日もパンジャビと呼ばれるインドの衣装を、撮影のために着てもらいました。

「現地で心に残っている香りといえば、花の香りですね。特にジャスミンの香りは強くその場の気を満たしていました」

 今、文明に囲まれた生活を離れて自分を空白にしたとき、そこに何が残るのかは、離れてみた人にしかわからない感覚があるのだと想像します。
 かのさんの人生は、宮城の酒蔵から原宿のクラブシーン、ニューヨーク、ロンドン、パリでの音楽作り。そこでまた酒蔵の大事さに気づいて。インドでリセットして。…と、時空を超えていくような、ダイナミックさ。

「私の役目は、そうやって垣根を超えることなのかなと思うんです」

 パンジャビの鮮やかな朱鷺色を翻して、彼女は次にどんな垣根を超えていくのでしょうか。もはやどんなに黒いものも軽やかにかわしていけるような彼女が作るこれからの時空が、とても楽しみです。

かの香織さん
photo by Kaori Kano

かの香織さん

  1. 3/3

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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com


2022.12.20 written by 森綾
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