40年近くもの間、作詞を続けている及川さん。次々と言葉へのアイデアは尽きない泉のように湧き出て来ますが、新しい才能の育成にも興味をもっています。
2022年、サブスク型コミュニティサイト『知のアジト』を立ち上げました。
「そういうものを作りませんかというお誘いをいただいて。担当者と『自分の頭でものを考えられる人が少ないね』という話になりました。『今の人たちは物事を白か黒かで判断して、グレーを許さないね』とも。でも実はグレーの部分が、想像力や表現力を作っていたりするんですよ。白でも黒でもないグレーの濃淡が、クリエイターの個性なんです。クリエイターを育てるには、自分の頭で考える訓練。人に伝える訓練が必要なのではないかと。技術は教えられても、なかなか教えづらいことなんですよね。その人に才能があればあるほど、マンツーマンでしか無理だし。言葉の書き方の技術は『ネコの手も貸したい』っていう本に書いてしまったし」
またクリエイターとして成功するためには、外的な要素も必要です。
「ずっと思ってきたのは、人脈には金脈もつながってくるということ。人がつないでくれるし、お金も運も、人がもってきてくれるものなんです。そういうものを引き寄せる力をつけるにはどうしたらいいか。たとえば誰か力のあるプロデューサーを紹介したとしても、そこから先がつながらない人が多い。それは伝える力が足りなかったり、相手に対する興味が無かったり。面白そうな話だけ聞いて満足していたり。深掘りしないし、自分のことも言いたくない。でもそれでは何も始まらないんですよ」
及川さんは、まずそこで互いが推しているものを紹介するということから始めています。
「学生時代からの友達ではなく、知らない人に、自分から提案できること。まず『どう思う?』と意見を聞くこと。たとえばこのお菓子がどうおいしいかを伝えましょうと。やっぱり美味しかった、まずかった、そのリアクションがまずコミュニケーションの始まり。知らなかったことを知る、という知見も生まれます。私を拠点に集まってるから広がるはず」。
一時は香りにはまり、調香師になる勉強をしようかと思ったこともあるという及川さん。結婚していた相手が「香水好き」だったことに影響されたのだそう。
「トルコ人と結婚していたんです。その相手がめちゃくちゃ香水好きで、信じられない買い方をするんですよ。これはどう、あれはどうとやっているうちに、私も集めたくなって」
特にどの香水が特別に好き、ということはなかったそうですが、ジャスミン系がお好きだそう。
「自分が買った香水をいろんな人にさしあげていたら、手元に残ったのはジャスミン系だったんです。確かにジャスミンの香りは好きですね」
歌詞の中に、花の名前や香りを使うこともしばしば。
「『ガーデニア』とか『木蓮』とか。香りを思い起こさせるから、花は使いやすいんです。藤井香愛さんの新曲で『ラストノート』という詞も書きました。90年頃には♪耳元に最後のプワゾン、なんていう歌詞も書いていますね。それにしても、少し前に『香水』という歌が流行りましたが、ドルチェ&ガッバーナっていうどストレートなブランド名が出てきたのは驚きました。香水のことがよくわかってない男の子の感じが可愛いのかな。シティポップス全盛の頃はブランド名は秘める方がカッコ良かった。シャネルとかディオールとかそのまま書いたらダサかったんです。一周回って面白い、かっこいいになったのかな」
一語一語に時代を感じ、次の流れを読む。歌い手にうたわれることによって完結する物語を鮮やかに描く。及川眠子さんの頭の良さは、そのまま人の思いを感じる濃やかな感性にもつながっているのです。心に単に刺さるのではなく、ズキっと心をえぐるような言葉は、そういう濃やかさから生まれてくるのでしょう。
サブスク型コミュニケーションサイト
「知のアジト~Agitation with 及川眠子」はこちらから
https://chinoagito.com/about
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com