しかし、佐々木さんにとって、神社巡りも長らく趣味の域を出ませんでした。それをトークにしてまさに「御師」として人に伝え始めたスタートは、今回訪れた多摩川浅間神社での寄席でのことでした。
「関西のラジオの仕事でお世話になっている落語家さんが、この浅間神社で寄席をやることになり、幕間で神社の話を喋れと言われたんです。神主さんの前で僕が神様の話を喋るなんておこがましい、と思ったのですが、それを北川貴史禰宜が聞いて『神社界には君のような人が必要だ』と、神社庁へ連れていってくださったんです。そこで全国の神主さんとコミュニケーションが取れるようになりました。まさにここが始まりなんです」
北川禰宜は、佐々木さんに現代の御師というイメージを重ねたのでしょう。佐々木さんはさらに神社についての知識も深めていきました。
「神社って、もともとは地域のコミュニティセンターのような役割も担っているし、特産物が奉納されますから、それを見ればその土地の名産がわかる物産館のような要素もあります。人がたくさん集まり、交流することでパワーが高まっていく。日本の神様は人が拝めば拝むほど強くなるんです。神様がルールを作って人が従うという構図は西洋的思想。日本の神様はそこにあらせられる、と人が祈り、称えていく。そこで生まれるパワーで願いを叶えていく」
多摩川浅間神社は、桜がシンボル。
「この神社は、コノハナサクヤヒメが御祭神で女性の神様。多摩川の川べりの桜で春は最高に良い香りです。神様は人の目には映らず、自然にいらっしゃいますが、春になると必ず桜が咲くというサインで『ここにいますよ』と教えてくださっているのだと思います。それを知って神社に上がるときっとこちらの想いも届くでしょう」
定期的に参拝することにも意味があると佐々木さんは考えています。
「人間だけがすぐに規則を忘れます。不規則になる。でも、神様は本来、規則性をもってすべてに宿っておられる。渡鳥も、花も、木も、暦通りに動きます。規則性に立ち返ることは、心の安定につながります。お線香をかぐと安心する、というのも規則性の一つだと思います。香りも、人の規則性を保つものなのです。こちらがスィッチを入れないと感じ取れない。自然の変化や香りを感じ取れる自分でありたい。だから、神社にも定期的に参拝することをお勧めします」。
趣味から、お役目へ。ある時、佐々木さんはその分岐点を感じる出会いを体験しました。
それは、某所のショッピングモールで開かれたトークライブでのこと。
「始まる前にお客さんが2人しかいなかったんですね。佐々木優太トークショーと書いてあっても、僕の顔もきっと知らないはず。そう思って、その二人に『なんでいらっしゃったんですか』と聞いたんです」
二人は親子で、佐々木さんの話だから聞きに来たのでした。この子は生まれつき身体が不自由でなかなか遠くには行けない。でも佐々木さんのSNSに出会って、全国へ出かける気分になっている、と。
… 佐々木さんはその言葉に、自分の気持ちを大きく改めることになりました。
「実は、その時、もうやめたいな、とも思っていたんです。でも『やめたい』は自分のためにやっていたからでしょう。自分のためだからしんどいし、やめたいんだな、と。自分のところで止めていたらダメ。人に伝えてこそ、意味がある。僕は神社で聞いたことを人に伝えることが仕事なんだなと。神社で貴重な話をしてくださる人も、僕に話すことで他の人に伝わると思ってしてくださってるんだなと。神社のことを話してお金をもらうことにも抵抗があったけれど、それは僕の仕事で、役目なんだと。人のためになら、頑張れます。そこから、神社巡りにも拍車がかかりました」
佐々木さんは神社と人をつなぐ、生きるメディアになる覚悟をしたのでしょう。
全国に神社は10万社以上あると言われているそうです。そこに眠る神様の貴い話、人を救う物語が、まだまだ佐々木さんを待っているのです。
●多摩川浅間神社
約800年前、北条政子によって建立された神社。御祭神はコノハナサクヤヒメ。多摩川沿いの桜を見下ろせる展望台を持つ、美しい神社です。
まだ電車のない時代に運ばれてきたという富士山の溶岩も必見。取材させていただいた日は、お宮参りの人たちの姿もありました。
公式ホームページ
https://sengenjinja.info/about/index.html
●佐々木優太公式
神社ソムリエのあやかりチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC0Wv49l3qlIdFX69FKD3y1g/about
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com