その地方ごとに、またその家ごとに伝わってきた文化としての太極拳。市来崎さんはそれをとても大切に考えています。
「昨日も滋賀県在住の陳式太極拳の先生が来て、教えてもらいました。諸説ありますが、太極拳の発祥地は河南省陳家溝と言われていて、そこに伝わるのが陳式です。村の財産で、その村に代々伝わってきたものなんです。家族同然に仲良くなって、内弟子になってやっと教えてもらえるようなものなんです」
太極拳は闘技でもあり、養生の技でもあります。
「医食同源という言葉は耳なじみがあるかもしれませんが、医武同源という言葉もあるんです。
昼間に一般の方に教えているのは、まさにそういう養生のための太極拳。身体を動かしづらい高齢者の方は、呼吸だけでもいいんですよ。”内氣を練る”と言って、呼吸はとても大事。身体を内から整える、強くすると言ったイメージです。内臓を活性化させますが、心臓には負担をかけません。」
一方で、こんな技も。
「推手(すいしゅ)という2人でやる太極拳があるのですが、これは相手がなにをしたいのか、感じながら動いていくんです。柔の武術。達人は、150gの力で人を動かすことができるそうです。また馬に乗るときの技というようなものもあります。馬の動きに合わせて丹田を回す。馬も、自分も、楽に長距離を乗るための技です。そういう太極拳から日本の古武術へと伝わってまた進化したものもあります。居合いなんかも、日本で発達していったものです」。
太極拳が内包するさまざまな要素を、これからどういうふうに生かしていくか。市来崎さんの仕事は多方面でありそうです。
「大学へ講義しに行ったり、アニメーターの専門学校で身体の動き、意識について講義しに行ったりもします。みんな目を爛々とさせて話を聞いてくれますよ。確かに絵に描く時に、それはとても重要ですよね」
2024年3月には、とうとう太極拳を生かして役者としても大きな舞台が。
「東京・両国のシアターX(カイ)で、武術をベースにした演劇をやることになりました。明治維新のときの侍のような、武術家の葛藤を描くもので、初めてセリフもあります。2023年はカンフーが題材のショートムービーに出演したり、日本の能舞台で、袴を履いて武術をやったりもしました。現役で競技は引退しましたが、身体表現としての武術太極拳の可能性も感じています。そう生かされるのかを見たいという思いはすごく強いです」
心技体がこれほどまでに一体になり、生きていくあらゆるところで生かされていくスポーツもたくさんはないでしょう。流行りの言葉で言うなら「ととのう」の根本が太極拳にはありそうです。市来崎さんはさまざまな形でそれを伝える役割を担っているのです。
シアターΧ提携公演 "BRICKS"
日時:2024年3月7日(木)〜13日(水)
場所:東京・両国シアターΧカイ
〒130-0026 東京都墨田区両国2-10-14 両国シティコア1階
JR総武線両国駅西口下車、左へ徒歩約3分
都営地下鉄大江戸線両国駅A4・A5出口徒歩約8分
公演特設ページ https://lit.link/bricks
<スケジュール>
7(木) | 19:00 A |
8(金) | 14:00 A/19:00 B |
9(土) | 14:00 A/19:00 B |
10(日) | 13:00 B/18:00 A |
11(月) | 14:00 A/19:00 B |
12(火) | 14:00 B/19:00 A |
13(水) | 14:00 B |
(開場は開演の30分前)
<作・演出> 加世田 剛
<キャスト>
-A- RICKEY 烏丸きなり 薬師寺尚子 (あサルとピストル) 林愛子 清水美智子 櫻井結花 青山治
-B- 脇田圭佑 横山真希 吉田憲章 早記 MC MASA! Ayu 市来崎大祐
<チケット>
一般:前売り¥5,500-/当日¥6,000-
学割:¥4,000-
VIP:最前列超体感シート¥8,500-
[予約フォーム] https://www.quartet-online.net/ticket/bricks2024?m=0zadjcg
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com