今回の短編小説集『確かなリスの不確かさ』は、やはり、動物との関わりから始まったようです。
「もともと、旭川の旭山動物園の飼育係だったあべ弘士さんという絵本作家になった人と『クロコダイルといるか』という絵本をつくったことが、このシリーズを書くきっかけになったんです。クロコダイルが『なぜ自分をこんな殺戮マシーンに作ったのか』と、神を恨むんですね。それで片想いの末に海に沈んでいくときにやっと神様と仲直りするという話で。子どもには難しいかなと思ったんですが、あべさんが『こういう動物の物語は読んだことがない。感動した』と言ってくれて、それで弾みがついたんです」
その絵本は2013年に北海道の剣淵町の「絵本の里大賞」を受賞しました。
「佐川急便のおにいさんが焦った声で電話してきて『北海道からダンボールが11箱届いています』と。なんかの間違いですよ、と言って行くと、かぼちゃ、にんじんと野菜がいっぱい。それで差出人の剣淵町に電話したら『おめでとうございます。受賞です』と言われました。1年分の農産物で、二人でとったので半年分でした。11個が僕の分でした」
それがきっかけで「動物と哲学」というテーマが生まれました。
現在、助川さんは大学で教鞭をとる一方で『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』全国朗読ツアーを続けています。
「今、勤めている大学の周りの森から、どんぐりを拾ってきて、お菓子の箱の中に入れて、その音を鳴らしながら、タイワンリスの緊迫感を表したり。落ち葉を拾ってきて箱の中で揺らして、風の音にしたり。朗読には抑揚や強弱があるので、読んでいるのとはまた違う伝わり方をするようです。音の表現は音階でなくても、ギターを弾かなくてもいいと思うんですよね。自然音とか、ものとしての音で。昔のラジオの効果音のように」
物語の伝え方は無限にありそうです。
「アニメになってもいいし、漫画になってもいいし、これを原作にいろんなこともできそうです。今後どういう形で続くかわかりませんが、僕のライフワークとして、前々からずっとやりたかったことなので。生き物と、人間の思想というものしか好きなものがなかったんです。まずはそれを声で届けていく。書店とか、飲食店とか、会場はいろいろです。大きいところでは、9月上旬に札幌の時計台ホールでやることが決まっています。秋には王子動物園や天王寺動物園など、動物園でも開催します」
朗読パフォーマンスの前後に、実際に動物を見ながら、また物語に思いを馳せるのも味わい深い時間です。
「味わってもらうというのはまたとても嬉しいことですね。結局、何かを味わうことが、生きるということだから」
物語に登場する動物たちは、人生のほとんどの時間、生きていくための苦難と向かい合います。そしてほんのひとときの良い時間を見つけます。ある生き物はそれが大人になる節目だったり、ある生き物は命を失う瀬戸際だったり。
物語を読んで、生きることの意味を味わう。そんな時間をもう一度大事にしたいものです。
▽インフォメーション
5月25 日(土) | 明治学院大学「戸塚まつり」、横浜キャンパス図書館にて。 「組み合わせと創造 ~横浜キャンパスで生まれた物語」 講演と『動物哲学物語』朗読 14:30~16:00(開場 14:00) ※要事前申し込み(無料 先着90名様) https://www.meijigakuin.ac.jp/library/about/activity/2024-05-08.html |
6月22日(土) | 横浜市南区の「本屋 象の旅」にて。 |
7月27日(土) | 大阪府森林組合「ラ・フォレスタ」にて。 |
8月8日(木) | 岐阜県大垣市の大垣東別院にて。 |
8月25日(日) | ASLE文学・環境学会で基調講演と朗読。学会会場:関東学院大学 |
9月1日(日) | 福島県郡山市のco-ba koriyama にて。 |
9月5、6日(木、金) | 札幌市時計台ホールにて。 |
9月7日(土) | 札幌市ゆる山ホールにて。 |
9月15日(日) | 秋田県大館市栗盛記念図書館にて。 |
9月22日(日) | 神戸市立王子動物園にて。 |
10月20日(日) | 京都市立動物園にて。 |
11月9日(土) | 杉並区永福図書館にて。 |
11月10日(日) | 大阪府立天王寺動物園にて。 |
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com