2013年の富名さんの短編映画デビュー作『終点、お化け煙突まえ。』にも、自分が死んだことに気づいてないような、漂う人たちが登場します。
富名作品の重要なテーマの一つに、あの世とこの世の境目があるのです。
それは、監督自身が早くに父親を亡くしたという影響があるのでしょうか。
「父が亡くなったのは僕が2歳の時でしたから、ほとんど覚えていないんです。ただ、母親がよく仏壇の前で、朝にも寝る前にも手を合わせて話しかけたりして、その姿を見よう見まねで自分もやっていました。死んだ人だけど死んでないような、見えないけどいる、みたいな、そんな感覚をもちながら育ったのは、影響しているかもしれません。本を書くときに、意図的にそういうものを書こうとしたことはないので、自然に出てきたものなんです。そういう感覚の中で育ったので。ただ、次作はそこから離れようとは思いますが」
富名さんが描くあの世とこの世の境界線は、ホラーではなく、宗教でもない、とても身近で、気配が伝わるような世界なのです。
「極端なことを言えば、目を閉じても耳を塞いでも、楽しめるような作品になったと思います。あとはもう、皆さんに好きに感じていただければ」
映画を観る、というよりも、その世界に共にいるような気持ちになれる。『わたくしどもは。』は、ある意味仮想的な異世界にどっぷりはまれる映画。世界へ向かって歩き出した富名監督の世界を、今、体験しておくべきでしょう。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
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