テクノのサウンドに乗せた歌うとも喋るとも言えない短い歌詞。しかし『PPAP』は、YouTubeでは驚異的な広がりを見せました。
「国内の反響は『かっけー。でも、意味ねえー』。とんがった人は『あのトラック、面白いね』。
でも海外からの反響は『おもしろい』。そして勝手に『ペンとアップルは男と女を意味しているんじゃないか』『思想的な右と左なんじゃないか』『地球と宇宙なんじゃないか』などと、どんどん哲学的に解釈してくれたりしましたね。国内で『どうせ一発屋じゃないか』という意見も、海外では『ワンヒットシューター』とポジティブに受け止めてくれ、リスペクトしてくれたのは驚きました」
国内と海外の受け止め方の違いは、その後、古坂さんがプロデューサーとしても手腕を発揮していく上で、大きな学びになったようです。
『PPAP』にappleが入っていたことは偶然だったのか、必然だったのか。古坂さんはあるとき、地元青森の美味しいりんごが、都内にはそうそう出回っていないことに気づきました。
「18歳で上京したんですが、りんごって、青森の地元では、地面に落ちてるものだったんですよ。あと、木箱に入ってどっからともなく回ってきて、縁側にあるもので。言ってみれば、ウォーターサーバーのような(笑)。そして地元ではどこで食べても、りんごは普通に美味しいものでした。ところが、青森以外では美味しいりんごを食べたことがないと思った。国内だけではないですよ。それこそ、ピコ太郎のワールドツアーをしていたときも、『apple pen』と歌詞に出てくるから、一流ホテルの部屋のフルーツの盛り合わせにりんごが入れてあるんです。でも、まあ美味しくない。りんごとは思えない。だからと言って、別に僕がりんごを売ろうとは思わなかったんですが」
そこで地元に戻ってりんご農園へ。
「福士農園という素晴らしいりんご農園があるんです。ここのりんごが食べたことがないくらい美味しい。高密縮栽培というのをやっていて、木が2m50cmぐらいしかなくて、5本に1個できればいいというような栽培なんです。勝手にですが、地域再生プロジェクトとして、りんごの価値をあげるプロジェクトを立ち上げました。シャインマスカットが1万円、宮崎のマンゴーが1万円。りんごもなれるはず。そこで『1個しかできない100万円のりんご』をつくってもらいました。1万円は10個限定で。1万円売れましたが、、、箱代とか考えると儲からないみたいです」
とにかく、古坂さんがやりたいことは、青森のりんごの価値のすごさをたくさんの人にわかってもらうことなのです。
「このりんごは、本当に真っ赤なんですよ。ほんの少しの皮の色むらでもNGだから、そういう跳ねられたのは、シードルにしたりすることも考えています。とにかく、まずは青森のりんごの価値をわかってもらいたい。だってりんご農家の平均年齢は70歳なんです。このままじゃ、りんごが終わっちゃう。海外資本や大手資本に買われてしまうのも寂しいじゃないですか。」
理屈ではなく、価値。エンタテインメントもりんごも、すべてはそこに戻ってくるのかもしれません。そしてそこには長年、積み重ねてきたものが必ずあるものなのです。そこにどう光を当てるのか。それが古坂さんのプロデュース力なのでしょう。
PRINCESS PIKO APPLE PROJECT
https://ppapple.theshop.jp/
※りんごジュース購入できます。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com