昨年10月、稀代のシンガーソングライターにして大人気バンド「アリス」の屋台骨といってもいい、谷村新司さんが亡くなりました。アリスでドラマーとして活躍し、アレンジにも携わってきたサウンド・メーカーが矢沢透さん。その悲しみ、寂しさはいかばかりかと想像するだけで胸がいたみます。
「そうですね。その出来事がなかったら、状況は違っていたかもしれません。谷村さんが亡くなり、すべてを失ったわけではないけれど、確実に失った気がしていたから。そのあたりから、自分とこのバンドの関係性が自然に盛り上がってきました。もちろん、アリスは消滅したわけではなくて、秋にはベーヤン(堀内孝雄さん)と、谷村さんの追悼コンサートをやる予定はあるのですが」
矢沢さんにとってアリスの存在は、おそらく計り知れない大きさがあるもの。そして、矢沢透という人の音楽の容量はそれを包み込むほどに大きいのです。
「ずっと今までやってきて、アリスも他のいろんなバンドもね、やりたいことを叶えてきました。のぞみは叶ってきた。でも、2011年からやってきたHUKUROHというバンドには少し疑問が、僕のなかにはありました。それぞれが自分の城をもったことがある人で、すごいミュージシャンです。だけど、ここでは音を出してるだけなんじゃないか。本当にちゃんとがっつり音楽をやっていないんじゃないかと」
17歳にして天才ドラマーと言われ、アリスのサウンドを牽引してきた矢沢さんならではの鋭い視点。矢沢さんはもっと高みを目指していたのです。
「僕はふたりに『1000人の小屋を目指すより、1万人の小屋を目指さないと。武道館でもう一度やりましょうよ。どうせなら、最後にもうひと花咲かせない?』と、言いました」
矢沢さんの熱い言葉にSORISEはエネルギーを注がれました。
「志も出てきたと思うんです。いい曲が出てきました。同じキャパで同じ曲をやって同じ盛り上がるより、やっぱりより大きなホールでより大きな拍手をもらいたい。それに見合う大きさに僕らもならないと」
鼓舞と具体的なサウンドへのアドバイス。矢沢さんはSORISEにどんなサウンドをイメージしているのでしょうか。
「アリスにはアリスのサウンドがあった。今はまだ出来上がっていないけれど、SORISEは一人のキャラに頼ってカラーになっていくのか、3人の個性がしっかりあいまっていくのか。いずれにせよ、その目標に向かっての演奏が続いていて、サウンドは自然と出てくると思います。6月の渋谷でのキックオフは、SORISEいいよね、とまず思ってもらいたい。おじさんたちが、目だけは少年のように輝かせているはずです」
音楽のなかで生き、音楽を仕事にし、音楽という息を吸っているかのような、プロフェッショナルな3人。その本気が、また客席との熱いコミュニケーションにもなっていくことでしょう。
SORISE。もう一度、昇る太陽を早く観たいものです。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
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