その後、鶴田さんは『KATARIBE』をテーマに写真を撮り始め、2018年、東京・日本橋で初めてそのタイトルで植物を撮った個展を開催しました。
「最初は散歩をしていて、植物を見たときにふっと目が合う感覚のするものを撮影していました。目が合う、ってどういうことなんだろうと、その頃、よく考えていました。そのうち、語りかけられているような感じがして。山を歩いていても、何か後ろから呼ばれている気配がする。その気配。じゃあ一体、植物は何を語りかけているんだろうというふうに、考えるようになりました」
その頃から、ちょうど瞑想を習慣にするようになっていったという鶴田さん。
「ヴィパッサナー瞑想を日課にするようになりました。これは、ブッダが悟りを開いたときにやっていたと言われている古典的な瞑想法です。すごく簡単にいうと、瞑想しながら、自分の体のなかを観察していくんです。体のなかは小宇宙というふうに表現されますが、そこを観察することで、大きな宇宙の法則を知っていくことを理想とします」
その瞑想を日課にするうち、鶴田さんは大きな気づきを得たようです。
「その瞑想のおかげで、世の中にあるすべてのものは、同じ法則のもとに動いている。デザインされているんではないかというふうに感じ始めました。自分の身体の中に、宇宙の中にあるものと同じような構造が詰まっていると考えるだけですごくワクワクしませんか」
花が語りかけてくる。そういう研ぎ澄まされた感覚もその瞑想の時間が育てていってくれたのでしょう。
「散歩をして花を見るときは、あまりディテールを見ていないけれど、カメラを通して観ると、よく観ようとしますね。そういう意味で、普段気づかないようなところに気づいたり、立ち止まったりできる」
蓮の花は、こんなことも語りかけてくれました。
「蓮の真ん中に花托があるんですが、その真ん中にある点々が雌蕊で、周りが雄蕊になっています。こんなに近くに雌蕊と雄蕊があるのに、自分たちでは受粉ができない作りになっているんです。つまり、蜂などの昆虫が介在しないと、生命は誕生しないのです。地球上のすべての生き物は、誰かの力を借りないと存続できないということも、花を撮りながら、花から教えてもらいました。よく自分の力だけでがんばって生きていると思いがちなんですが、花から学び、頭を垂れて、慎ましやかに生きたいと思います」
俳優としてデビューして35年。鶴田さんが変わらない一本の美しい芯をもち、いつお会いしても純粋で弾けるような笑顔でおられる理由が少しわかったような気がしました。五感を鍛え、自分の静かな心の輝きを大事にすること。写真を撮ることも、彼女が彼女であるために欠かせない表現なのです。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com