今、落語家になった宮治さんがしたいことは、落語への恩返し。
「落語への恩返し。どうやったらいいのかわからないんですが。『笑点』メンバーにならせていただいたおかげで、全国のどこへ行っても、なんとなくわかるみたいで。落語になんか興味のなさそうな高校生でも、1回ぐらい番組を観たことがあるみたいで。だから、落語とその子供達をつなげてあげる立場にならせてもらったので、もうお金に関係なく、小学校に寄って落語会をやったりしています。重度のハンディキャップを抱えている子どもたちがいる施設にも行かせてもらいます。親御さんたちも、そういう子どもさんがいるとなかなか会場に行けなかったりするので、一緒に楽しんでもらえたらと」
会話したり、動くことすらできないという子どもたちでも、何かしらの反応はあります。
「落語、絶対にわかんないだろうなと思うような寝たきりの子どもでも、じゃあ最後、一緒に写真撮ろうと言ったら、ピースしたりする事があるんです。理解してるんですよ。表現できないだけで。それで親御さんも一緒に楽しんでもらえるなら、それは唯一、落語に対して僕ができる恩返しかなと。先輩方はもっと素晴らしいことをやっていらっしゃると思いますが、僕が地道に自分ができることからやっていこうと思っています」
宮治さんの全力の表情が、きっと伝わるのでしょう。
「あと、心がけているのは、棺桶に入るまでが仕事なので、現役でいられる間は、絶対に一度も手を抜かないこと。人生で初めて、人生で一度だけ、というようなお客様が会場には必ずいらっしゃると思うんです。自分が手を抜いていたら、その人と落語との出会いはそれで終わってしまうでしょう。だから、日々、手を抜くな、最後までちゃんとやり続けろと、自分に対して言っています」
後戻りはできないし、したくない人生。とびきりの運を掴む人には、とびきりのアンテナと人には見せない努力があるのでしょう。そして、人に対して頑張り続けているから、一人の時はぼんやりしたい。「人見知りで人嫌い」という意味はなかなか深そうです。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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