語る。ピアノを弾く。絵を描く。さまざまな感覚に優れている花緑さん。一方で2017年、自分が「識字障害」という発達障害の一種であることを公表しました。
「読めないし、書くのも大変です。台本をつくるときは書きますが。まず読めていないので、覚えたい字があるときは、調べて漢字を書いてルビをふっています。自分で書いたくせに読めないから。最近はipadに打ち込んでいます。それをまた紙にして、紙にしたのを見ているとまた修正したくなるので、赤ペンで消して、上から書き足して。そうやって台本を作っています。自分の特徴をわかっているので、軽んじないように書いています」
少しでも進歩したいという思いを持ち続ける花緑さん。
それでも資料として読まなければならないものは一生懸命、読もうとします。その障がいを持たない人には理解できない努力がそこには必要なのでしょう。必死に取りに行かないといけないという感じ。実はあまり、香りを嗅ぐことも得意ではないと言います。
「鼻がバカなんです。この取材を受ける権利のない男です。妻と散歩していて『金木犀のいい香りがするね』と言われてもどこどこ?という。でも好きな香りはありますよ。お香は白檀など好きです。自分から寄っていかないといけないんですね」
一つ、できないことがある人は、何か惹かれるもの、どうしても得たいものに「寄っていく」ときの集中力がすごいのだろうと想像します。一つ何かが不自由で、他の何かの能力が突出しているというのも個性。花緑さんの話を聞いていると、自然にそう思えてくるのです。
「発達障害をもっている人、そういう子どもをもっている親御さんたちの会に呼ばれて講演をすることも増えました。そういう人たちは頑張っているし、深刻になりすぎているんです。向かい合ってマイナスばかり数えちゃいけない。凝り固まると良くないんです。執着、って電車の終着駅と同じで降ろされてしまうって僕は思っています。願望にしてもね、叶うと嬉しいけど、叶わなくてもいいやくらいのゆるい気持ちでいる方がいい。実際に科学的にも、寝たいけど眠れない状況と同じで『寝よう寝よう』と頑張っていると、起きているときと同じ脳波になるから眠れない。『寝たいけど寝られなくてもいいや』くらいの気持ちの方が眠れるんですって。願望も同じなんです。笑いながら叶うといいな、くらいがいいんですよ」
自分を受け入れて、努力を積み重ねることは忘れない。でも、執着しないし頑張らない。感謝して笑顔でいる。そんな花緑さんの存在とそこから発するエネルギーは、たくさんの人を救っていることでしょう。そこにはそのままの自分を生かす生き方のお手本がありそうです。
●花緑ごのみ
http://www.me-her.co.jp/produce/
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com