外苑前のオフィスの壁面には、そのときに話題になっている人物の肖像画が描かれています。
「この壁は、僕らの報道だと思っているんです。この外苑前という場所も、再開発の波にさらされていて、お店も安定して整った大手チェーンばかりになってきている。その街並みに、何かノイズを入れてあげたい。なんらかのノイズを入れる、というのは、アートの役割の一つだと思うんです。少なくとも、この前を通る人たちは何かを感じ取ってくれる。何か感じるでしょう。誰かはちゃんと見てくれる。これを見て、ふらっと入ってくる人もいます。3件くらい、仕事になったりもしていますね」
報道として誰を描くのか。取材時は、日本人として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たし、シアトル・マリナーズの永久欠番となったイチロー氏が描かれていました。
「報道と言っても、人をハッピーにすることがいいと思うんです。世間がテレビの一企業のことでゴタゴタしているタイミングだからこそ『我が道を行く』イチロー氏はかっこいい。『おまえはお前の人生を生きろ』と言われているようで。彼はまだなんか前に進もうとしているし。一番よかったのは殿堂入りの投票が満票ではなかったこと。それを『不完全な方がいい。完全だったら終わりだから』と」
赤澤さんも、前に進み続けることを考えています。
「次はロスかな。ロサンゼルスは壁画の聖地なんです。メジャーを目指していかないとね。僕らがなんとか生き残ってこれたのは、アーティスト目線ではなく、そのアーティストをこの国に根付かせたい、アートを広げたいと思うなら、社会のなかでどう役に立つか、だということを学びながらやってきたからじゃないかと思うんです。何もせずに支援してください、は違う。それをやることによって、みんながハッピーにならないと」
これからは世界がターゲット。壁がある限り、人がいる限り、OVER ALLsの仕事は止まることがありません。そして、赤澤さんのアートへの考え方は、すべての「仕事」の本質にも重なるような気がします。
公式サイト
http://www.overalls.jp/cn23/top.html
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com