ナイーブでこまやかな感性を持っている咲太朗さん。大学で進路を決める際、2年生ぐらいの頃に寝付けないことがあったのだそう。
「その頃、京都の友達にどうしたらいいかと尋ねたら『お香をたいたら』と言われたんです。それ以来ずっと、僕は部屋でお香をたいています。お線香なんですが。一本立てるやつだと毎回灰を片付けるのが面倒になってきて、仏壇に備えるような灰の入った香立てを使っているくらいです。この間、どのくらいお線香置いてるのか確かめてみたら6箱ありました(笑)」
香りを使い分けるほどのお香好き。
「基本、白檀がベースなんですが、仕事用、寝るとき用と使い分けています。昼は香りが強いものを、夜は控えめなものを。作業中もずっとたいているので、自分だと気づかなくなってしまっていて。部屋の外から母親が『なんか燃えてるにおいがするよ』と言ってきたりします(笑)。なんか落ち着くんですよね。おじいちゃんおばあちゃんちの香りがするからかな」
ご本人も穏やかな香りがするような人柄だからか、お客様からも香りのプレゼントがある。
「結構、香り袋をいただくことが多いんです。『箪笥に入れて』とか。僕は風呂敷にも、キャリーケースにも一つ入れています。噺家さんは使っている方が多いんじゃないですか。この師匠のこの香り、っていうのがあって、かっこいいんですよね」
咲太朗さんもお友達に香りを贈るという。
「気にいらなかったら、トイレにでも使って、って。香りって贅沢だし、邪魔にもならないでしょう。自分で買うよりももらうとなんか嬉しいですしね」
そんな振る舞いはどこか都会育ちのイメージもある。
「そうなんです。僕は都内で育ったのでシティボーイ。父と違うのはそこですかね(笑)」。
そう言って笑いながらも、父親であり、師匠であるたい平さんへの尊敬はしっかりと芯にある。
「師匠と同じように僕も縁は大切にしています。先日、たまたま居酒屋で知り合った方が滋賀県の信楽技術産業センターの所長さんだったんですが『今度行きますよ』と言って、本当に3ヶ月後に行き、落語もやらせてもらいました。そういうちっちゃな縁を大事にしていきたいなと思います」
父の心に習い、師匠のやり方に習う。でもおそらくこれから、咲太朗さんは咲太朗さんとしてもっと世に出ていくのだろう。
「父のようにたくましく完璧に生きることはできないかもしれない。でものびのびと聴いてくださる人も肩の力が抜けるようなような話ができるようになりたいですね」
二つ目にしたときに、さく平から咲太朗という本名に戻した。
「師匠につけてもらった名前を大きくするのが、師匠孝行だと思いますから」
ある心理学者から「とりわけ男性は父という壁を乗り越えたとき、男になる」という話を聞いたことがある。父を乗り越え、師匠を乗り越えて、それでもほっこり微笑んでいる咲太朗さんの未来まで、応援したい。


<咲くらくご>
【日時】2026年3月22日(日)
13:30開場 14:00開演
【会場】シン・道楽亭
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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