そんな北原さんは25歳のとき、ブリキのおもちゃを集めることになる運命的な出会いをしました。
「グラフィックデザイナーの矢野雅幸さんの部屋が『私の部屋』という雑誌で紹介されていたのです。そこにはブリキのおもちゃが並んでいました。僕は出版社に電話して、彼のことを紹介してもらいました。東北沢のアパートを尋ねて、呼び鈴を押すと『ちょっと待ってください』と声がして。『ああ、いいですよ』と扉を開けたときの光り輝くような瞬間を、今でも憶えています。そこにはブリキのおもちゃがずらりと並んでいた。そのときめきを今も超えられていないかもしれません」
それから、北原さんと矢野さんは、休みの日には一緒にブリキのおもちゃを探しに行くようになりました。1970年代のことでした。
「ところが10年前に、彼はALSという難病にかかってしまいました。3年前には危険な状態になりました。僕は病室に行って『次、行こう』と言いました。もうここは何もないから、次の場所へもっといいものを探しに行こう。それは、二人の宝探しの日々の合言葉だったのです。それから矢野さんは持ち直した。僕は矢野さんのために何かしたくて、宝探しの思い出を『GOLD LUSH』というミュージカルにしました。お金はないけど夢はいっぱいある。二人で立ち食いそばを食べて、矢野さんが『僕がごちそうするよ。北原さんにはてんぷらいれるから』『いや、半分こしよう』そんなやりとりもありました」
そのミュージカルはたくさんの人たちの感動を呼びました。そして、二人が涙するのは、同じシーンだったのでした。ラストソングは『Over the rainbow』だったそうです。
膨大なときめきのコレクション。北原さんは、それらを「一時預かり」だと微笑んで言います。
「今は僕が所有してるけど、現代の技術をもって保存すればすべて、僕がいなくなっても残っていくものたちです。神様が僕に寿命があるうちは一時預かりをする役目をくれたのです。だからこれをまた次の世代に伝えていこうと思っています。ここ5〜6年の間に、相応の場所と建物を提供してくださったら、モノは寄付してもいいと思っています」
人が一人で集めたとは思えない膨大な数のお宝たち。それらすべてに「香り」があると、北原さんは言います。
「時代を吸った香りがあるのですよ。僕はそういう、琴線に触れたモノしか集めていませんから」
香りは、目に見えないもの。北原さんは、その見えないものの力もとても知っている人。
「見えないものはいくつかありますよね。運。音。香り。心。空気。全て五感に訴えるもので、ものすごい力がある」
言葉の力を集めるのも、北原さんの最近のコレクションのひとつ。
「たとえば良寛さんの座右の銘は『一生成花』。生涯、良い香りを発しながら生きる。香りはその人の生き方だということなのです」
集められたモノももちろん素晴らしいし、ときめきをくれます。でも、北原さんという人自身の心にある出会いやときめきのコレクションは、さらに膨大で、また出会う人たちにこの上ない良い香りと、ときめきをくれるのです。
『渋谷で大人のRadio Show vol.2』
「億千万の胸騒ぎ」と売野雅勇が書いた、人と人との出逢いについて。運命について。夢の叶え方について。
夢の原動力にもなった音楽について。売野雅勇が「運命の男」と呼び、そして「音楽のような人だ」と、その人柄や存在を形容した北原照久さんをゲストに迎えて、ふたりの夢見るような生き方をを語り尽くします。
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
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撮影 ヒダキトモコ
https://hidaki.weebly.com/