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    第58回:倉田健次さん(映画監督)

倉田健次さん

《3》

倉田さんが映画の撮影そのものと出会ったのは、小学生の頃。生まれ育った岐阜県飛騨高山に近い揖斐川周辺の村が神山征二郎監督の『ふるさと』(1983年公開)のロケ場所になっていたのでした。

「徳山ダムというダムの底に沈む町を舞台にした物語で、うちの親類が出資や撮影協力をしていたのです。そのとき、僕は小学2年生か3年生だったのですが、素人の子どもとして主役にされそうになって、逃げ回っていました。でも、役者はともかく、映画の現場を見ていたのは一つの経験で。別にだから映画を撮りたいと思ったわけではないのですが。ただそれから30数年経って、僕は神奈川県にある自然豊かな藤野町でプロではない子供たちを主役に『藍色少年少女』を撮ったのですから、なんだか不思議な気持ちでした。無意識のうちにやっぱり影響されていたのかな、って」
 そのとき、倉田さんにはダムの底に消えゆく町への思いは強くあったのです。

「好きだった町、慣れ親しんだ町が、水の底に消えてしまう。それはいつもあるものが、いつまでもあるわけじゃない、という強い気づきでした。僕の作品にはそういう”いずれの喪失感“みたいなものがあると思う。若い頃はそれにうじうじ浸っていたけど、少しずつ抗うようになって、客観的に見られるようになって。成長とともにそれが僕だけのものではない、皆が抱えているものとわかるようになりました。それをどう表現して、他者と共有できるか。根底は変わっていないのかもしれませんが、それが僕のなかで作品を作る大きな転機になったと思います」

その転機で出来上がったのが『藍色少年少女』だったそうです。

《4》

近い将来、映画館でも「香り」が出てくる時代がくると言われています。しかし倉田さんの映画には今もそこはかとない香りがする気がします。

「僕自身、香りは気になるほうで、いつも想像しながら書いています。特に海外の町だと、そこにしかない独特の香りがあって、それは表現したいと思っています。東京は無臭のほうがかっこいいようなイメージがありますが、本当にそうなのかなと思います。良い印象の人はいい香りがしますし」

匂い、という言葉自体も別の意味で使うことが。

「面白くなりそうな匂い、と言ったりします。成功しそうな匂いがする、とか。つまり、匂いを予感という意味で使っているのですね。それは何かこう、鼻の奥のほうで感じる匂いなんです」

生まれ育った故郷にも、木や山、雪の匂いがありました。

「手に触れるものが近い分、自然と自分とは影響しあっていると感じます。出会ったもの、自分が大事だと思うものにこだわる気持ちはたぶん、都会の人よりも強いかもしれません。なんというか、人間そのものだけでなく、その周辺に執着する気持ちがあるんですよね」

おそらくその倉田さんの思いが、映像として作品に現れていくのでしょう。

「どういうターゲットに見せる映画か、今はもう考えていません。誰が見ても楽しく、感銘を与える映画を、叶うなら僕の映画を観た後、隣人に優しくありたくなるような、そんな映画を作りたい」

原作や脚本を書き、監督する。そこには語り尽くせない多くのことが潜んでいるのでしょうけれど、倉田さんはきっと、シンプルにまっすぐ心にくる映像でそこにある匂いを伝え続けていかれるのでしょう。

倉田健次さん

『藍色少年少女』
http://fujino-kidstheater.net/aiiro/
名古屋公開
10月19日~10月25日
【名演小劇場】
http://meien.movie.coocan.jp/lineup.html
その後、京都、横浜でもロードショー予定。

短編映画『NOVERA PICARESCA』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=iT7tdszMgwY

倉田健次
岐阜県高山市出身。映画監督/シナリオライター/小説家/アクティングトレーナー。
次世代を担う映像作家の発掘/支援、映像文化への貢献の為、全世界から受賞者が選出される「サンダンス・NHK国際映像作家賞」にて『彼女のSpeed 』グランプリ受賞。『ピカレスカ~Novela Picaresca~』、『EVERYTIME WE SAY GOODBYE』では多くの海外映画祭にてグランプリを獲得し、国内外の国際映画祭にて23冠を受賞。近年では連続テレビドラマ「ふたりモノローグ」(主演:福原遥 柳美稀 山本彩 他)シリーズ全話の監督/脚本を担当し好評を博す。新作『さよならドロシー』(出演:中島琴音 水野美紀 石倉三郎 他)が完成し、国際映画祭出品予定。原作/脚本作品として『Bad Moon Rising』(主演:菅田俊)、『君がいなくちゃだめなんだ』(主演:花澤香菜)等。

撮影協力 サーラ・デグスタジオーネ
東京都港区赤坂6-13-3
saladegustazione.com
03-3583-0450
バラエティにとんだワインをグラスから楽しめるイタリア料理店。あまり知られたくない大人向けの店です。

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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 上平庸文


2019.10.16 written by 森綾
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