東京・吉祥寺の家では、奥様と3匹の猫との穏やかな暮らしがあります。
「20年前に家を建てて、自宅と仕事場を一緒にしたところで、猫を飼い始めました。最初に正太郎を友達にもらってたら、僕になついてしまって、女房が自分専用の猫がほしいと言い出して。同じ鉢割れのがいいなあと思って、里親サイトで探して、小金井のペットクリニックまでもらいにいったのが、ミミ」
2匹は『ミミ正』という猫漫画にもなっていますが、そこへ新たに入ってきたのがルリ子という謎の猫です。
「ルリ子は不思議だな。家庭内ノラ猫だね。最初はうちの風呂場の外の塀をのぞくと、蔦のつるに飛びついて遊んでいる生後2ヶ月くらいの子猫だった。親もきょうだいもいなくて、うちにも2匹いるし、どうしようかなあと。庭のデッキにご飯を置いて食べさせていて、台風が来る前に飛ばされちゃうかなあと家に入れて、結局飼い出したんですよね」
飼い始めて6年のルリ子ですが、いしかわさんの足元に寄ってくるのは冬場だけなのだとか。
「家のなかでもすぐ行方不明になるんです。飼い猫にならないんですよね、いつまでたっても」
そんな猫たちとの濃密なやりとりも、いしかわさんはまるで人との暮らしのように描いてしまいます。いやしかし、それは猫好きのアーティストたちに共通するものなのかもしれません。
「毎年、猫をテーマにしたグループ展『ネコトモ』を開催して、プロの作家が12~3人集まっています。全く違うジャンルで面白い作品を作っている人にネコを描かせたり。陶芸、立体作品、バッグやTシャツもある。半分は有名作家で半分は無名か、別業界の人。共通点は僕が面白い人だと思うことかな。これが全国の猫好きの人たちに浸透して、最近、ものすごい来場数になっています。僕はひょっとしたら作家というよりプロデューサーなのかもしれません。いろんな新人をデビューさせたり、人を紹介したり、こういうのやらせたらいいんじゃないかという
ことがはまったりしている。自分がいろんなことをやったのも僕のなかのプロデューサーの自分が、僕にできるからやってごらん、と、背中を押したのかもしれない」
混沌とした今の世の中に、いしかわさんのような存在はとてもたくましく感じます。
「漫画に役目はあるのかなあ。わからない。でも、同世代がいなくなってきているから、頑張らないとね」
眼鏡の奥に、人にも動物にも深い洞察を注ぐ瞳がありました。いしかわさんはまだまだプロデューサーと作家を行き来しながら、新しい風景を私たちに見せてくださるのでしょう。
⚫︎取材協力 グランキオスク
https://tabelog.com/tokyo/A1320/A132001/13173053/
雑貨に囲まれた不思議なカフェ。周りにいっぱいものがないと落ち着けない人におすすめです。
⚫︎2020年4月29日〜5月6日の8日間、吉祥寺リベストギャラリー創で、音楽をテーマにしたグループ展「キチレコ」を開催します。漫画家、イラストレーター、デザイナー、ミュージシャンが集結。5月9日にはスターパインズカフェで、打ち上げライブも。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 ヒダキトモコ
https://hidaki.weebly.com/