フランスに留学していた頃、香水の本場、グラースを訪れたこともあるという味千代さん。
「フランスの人は香りが暮らしに作用することをいつも考えています。香りと生活、人間が一体になっているのです。今も香水の香りをかぐと、留学時代のことがよみがえります」
山中湖のそばに暮らした子どもの頃から、自然のなかの香りを嗅ぎ分けるのも得意でした。
「故郷には自然がそのままあり、朝、昼、晩の香りが違うのです。だから1日をよりはっきりと意識できます。頭がすっきりするのです。そうして、四季も、香りに区切られています。友達に『今日から秋だね』というと『え、なにが』と言われますが、秋の始まりの香りがあるのです。友達は都会の人だったので『香りで季節を感じたことがない』と言っていました。香りは目に見えない季節の時計でもあるのです」
東京にいて仕事をするときも、味千代さんのそばには香りがあります。
「修行時代、きものときものの間に匂い袋をはさむ師匠がいました。前座時代、着付けを手伝うとき、師匠の肩にきものをかけると、その香りがふわりと漂うのです。それから、私もきものには白檀の香をしのばせています。そのきものを着たときに、幸せな気持ちになれると同時に、集中力が出て、すっと落ち着きを取り戻せるのです。自分のなかで、女性として一段上がった気がするというか」
凛とした言葉のなかに、ふっと白檀が香ったような気がしました。
味千代さんの人生にずっとともにある太神楽の存在も、そんな香り方をするのかもしれません。
写真 ご本人提供
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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