『ばるぼら』の舞台は新宿が中心ですが、ガード下や裏通りなど、映像からなんとも言えないニオイが伝わってくるようです。
「映像を表現するのに最後の難関が香りです。香りやニオイを感じられるような演出をしたいと思いますね。見ている人の記憶とも関係してくるので難しいのですが。つまり、見ている人の記憶にその香りやニオイがなければ伝わらないわけですからね。雨に濡れた後の木の香りを表現しても、それを嗅いだことのない人にはわからない」
しかし新宿のニオイは多くの人が知っているかも。
「新宿は400年間たくさんの人が流れ込んで来た町ですからね。江戸時代から宿場町で、ずっと繁華街なので、土地に染み込んだニオイがありますね。一方で今、西口は副都心があって、未来と過去がごちゃまぜになっている。そこが好きですね」
手塚さんは仕事のときも、香りで気分を変えているそうです。
「落ち着きたいときは沈香、白檀。部屋を活性化したいときはアンバー。そのときの仕事に合わせて使い分けています」。
2020年は世界的にコロナ禍にあり、すべてのエンタテインメントにとって試練の年でした。
手塚さんはどんな思いでこれから作品に臨もうとしているのでしょう。
「それでも2020年に新作を上映できてよかったと思っています。つらい時期を乗り越えての2021年。ポジティブな気持ちを失わないことですね。僕にとってはここ20年の総決算で、けじめの年になる気がしますね。しかも今年、還暦なのです。ここから新しく始める。新しい自分にわくわくしていますよ」
また新作への準備も始まっている様子。
「映画をつくると気が長くなります。5年とか10年のタームですから。2020年、考えたことが、今年以降、ゆっくり実って行けばいいと思いますね」
まず手塚さんの頭のなかで、作品はすくすくと育っていっているのでしょう。
目に見えないものの果てしなさ。それを見えるものに作り上げる手塚さんのたくさんの決断。
だから出来上がった作品は、1回より2回、2回より3回と、何度観ても違うものが見えてくるのです。
映画『ばるぼら』
全国公開中/デジタル配信中
配給:イオンエンターテイメント
公式HP:https://barbara-themovie.com
映画『白痴』デジタルリマスター版
全国順次公開中
公式HP:https://eigahakuchi.com
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。
東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
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