フレグラボ|日本香堂

人と香りをつなぐwebマガジン

Fraglab
  1. HOME
  2. ヒトサラカオル食堂
  3. 第22話 本日のお客様への料理『辛くて甘い人生のようなガパオライス』
    1. 小説
  • 第22話 本日のお客様への料理『辛くて甘い人生のようなガパオライス』

    1. シェア
    2. LINEで送る

🥂Glass 3

 「そうと決まると、お腹が減ったな」

 佐伯はいたずらっ子のように言った。カニオといい、佐伯といい、特殊な才能をもっている人たちは、心根が子どもだ。それもいたずらっ子なのだ。
 幸はとちょっとメニューを考えながら言った。

「ごはんもの? パスタ? それとも」

「僕がご飯ものがいいな」

 良介が言った。実はお腹が空いていたのだろう。

 幸はありものを考えながら、こんな提案をした。

「良介さんは、辛いのは大丈夫ですか。甘辛い感じ」

「甘辛い、大歓迎です。それならすごく味わえる」

「じゃ、ガパオとかどうかしら」

「いいね。まだちょっと暑いしね」
 佐伯も賛同した。
 幸は心の中でよっしゃ、と気合を入れる。

 刻んだにんにくを油で炒め、良い香りがしてきたら、鶏ひき肉を入れて、塩をひとつまみ。色が変わるまで炒め、そこへ玉ねぎとピーマンを入れる。本当は赤ピーマンがいいけれど、緑しかないのでこれで許してもらおう。また塩をひとつまみ。野菜に火が通ったら、青唐辛子のみじん切り、酒、きび糖、酢、オイスターソース、ナンプラーで味を整える。
 これをあっためたご飯と器に盛り、別鍋で作っておいた目玉焼きをのせ、バジルもたくさんトッピングした。

第22話 本日のお客様への料理『辛くて甘い人生のようなガパオライス』

「ちょっと和よりのガパオライスです。もうちょっと辛いのがよければ、サテトムをかけますよ」

「はい」

 佐伯が小さく手を上げた。幸は小さなスプーンに1杯、サテトムをかけた。

「よーく混ぜて召し上がれ」

「いただきます」

 二人は勢いよく混ぜ、口に入れた。

「うまー」

「うん。辛い。けど、うまい」

 良介がバジルをスプーンに取り、それだけを口に入れた。

「バジルの香り。思い出せる。いや、ちょっと香るような気がするな」

「本当か」

 佐伯が手を止めて隣を向いた。

「うん。…わからん。記憶が今の嗅覚に勝るのかもな」

 一人であはは、と良介が笑った。
 その笑顔を嬉しそうに佐伯は見て、同じように笑った。

「やっと笑った、こいつ。うん、楽しくやろうや。今度いつ来る?」

 二人の友情が眩しくて、幸の目がちょっと潤んだ。

 そして、今年の大晦日が急に輝き出した。

第22話 本日のお客様への料理『辛くて甘い人生のようなガパオライス』

筆者 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

イラスト サイトウマサミツ
イラストレーター。雑誌、パッケージ、室内装飾画、ホスピタルアートなど、手描きでシンプルな線で描く絵は、街の至る所を彩っている。
手描き制作は愛知医大新病院、帝京医大溝の口病院の小児科フロアなど。
絵本に『はだしになっちゃえ』『くりくりくりひろい』(福音館書店)など多数。
書籍イラストレーションに『ラジオ深夜便〜珠玉のことば〜130のメッセージ』など。
https://www.instagram.com/masamitsusaitou/?hl=ja

  1. 3/3
  1. シェア
  2. LINEで送る

スペシャルムービー

  • 花風PLATINA
    Blue Rose
    (ブルーローズ)

  • 日本香堂公式
    お香の楽しみ方

  • 日本香堂公式
    製品へのこだわり

フレグラボ公式Xを
フォローする