ヒトミのマンションで待機していたケイも合流し、三人は夢洲へ向けてタクシーに乗った。
一番小柄なケイが真ん中に乗る。
「ケイちゃん、ごめんな、真ん中」
「定位置ですやん」
「そや、私が真ん中に乗ったら二人は見えんようなるからな」
ヒトミがそう言って笑いをとった。
万博の入り口は長蛇の列だった。ヒトミが口を窄めて言う。
「予約してもこんなんやねんなあ」
「するするいくんとちゃう」
幸はとりあえずなことを言ってみんなの気持ちを穏やかにしようとしたが、ふと気づいた。
「ヒトミちゃん、なかのやつも予約してくれたんかな」
「あ、パビリオンか。予約してませんわ」
「もうええやん、なんか適当に見られたら」
「すごい人ですよね」
三人は、会場の中に入っても、人、人、人、という状態にもはや疲れ始めていた。
「とりあえず、屋根の上、のぼりますか」
ヒトミがエスカレーターを見つけ、それで大屋根に上ることになった。上に上がってみると、大屋根はまたその大きさを実感できる。例えば万里の長城はこの何千倍、何万倍もあるのかもしれないが、果てしなく続いていく感覚が似ていた。
「うわ、ごっついな、これ。ようつくったな、こんなん」
「ぐるーっとなあ。これ、終わったらどないしはんねんやろ」
大屋根の上は、微かに木の香りがし、そこを生あたたかい海風が抜けていく。
「風は来る、と。なんか腹ごしらえをしたいとこやなあ」
外から発光しているように素敵なレストランが見えたのは、イタリア館だった。
「…並んでるわ」
「とりあえず、空いてるとこ行こっか」
三人がやっと辿り着いたのは、くくるのたこ焼きだった。
「たこ焼きとビールで2000円やて。なんと」
ヒトミがつぶやくうちに、ケイがすばしっこく空いたばかりのテーブル席をとった。
幸はとりあえず、それを3つ買い、代金を支払った。
「すみません、ママ」
「いやいや、車乗せてもろたり、タクシー代も出してもろたし」
「こんなゴージャスなたこ焼きを・・・」
三人は「乾杯」と、ジョッキをカツンと合わせた。
「あー。美味しい。…いただきます」
ケイが店の方をチラチラ見ながら、小声で言った。
「あの、鉢巻して焼いてる人、蘭子さんでしょ」
「蘭子さんて」
「白蘭、いう店ありましたやん。割と昔から」
「ああ、あったねえ… え、白蘭のママさん」
「たぶん。よう似てはる」
ケイは目を細めながら、ため息をついた。
「ようけ閉まりましたもん。店」
「そら、ロータスかてもうないんやもん。私らもこの歳やで」
幸はそう言いながら、ふと「あ、そうだ」と呟いた。
「あの、憶えてるかな。マダムミツコのママのこと」
ヒトミは目を見開いた。
「憶えてますよお。めっちゃ美人で、めっちゃいけずな」
幸は苦笑いして言った。
「亡くなったんやて。この間、息子さんがうちの店にきはったんよ」
「ええええっ、息子ォ〜?」
ヒトミとケイが思いきりハモった。