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    第3話 『麻貴の事情』

《4》

 麻貴が翔平との出会いを話し終わると、かなり酔いが回っているらしい多美子が、ワイングラスに頰をくっつけて言った。

「いいなあ。いい感じじゃない」

「でも本当になかなか会うのも悪いみたいな感じで。夜中に譜面作ったりして、朝は7時起きで会社に行くし、彼、4時間くらいしか寝てないんですよ」

 多美子は酔った勢いで言った。

「住んじゃえばいいじゃん。一緒に」

「えっ… まあ、そうなんですけど」

「待ってるからいけないのよ。押しかけちゃえば」

 確かに、麻貴もそれを考えたことはあった。しかし「自分は41歳で、彼より7つ年上だ」というのを、どこかで引け目に感じていた。でもここではそれを口に出さなかった。

「そっか。でも二人で住むには引っ越さないと、あそこは狭いかなあ」

「じゃあ、引っ越そう」

 多美子はまた赤ワインをひと口飲んだ。こうなったら誰も止められない。

「わかった。いくつか住みたい物件の見取り図をもっていって、具体的に話を進めちゃえばいいのよ。言い方は控えめにね、良かったら一緒に住みませんか、ってね」

「それ控えめですか」

「でしょお」

 語尾を上げ、確信をもって語り続ける多美子を麻貴はじっと見つめた。そしておもむろに聞いた。

「多美子さんは、ずっと独身なんですか」

「そうよ」

 麻貴のなかで、多美子の確信をもった話が、急に色あせた。その表情を見た多美子はふふん、と笑った。

「あのね、他人のことはわかるものなのよ。まるで画面のなかのドラマを見るようにね。とにかくあなたの場合は、今の状況をどちらかが変えなきゃ。で、たぶん、それはあなたから変えるべきな気がする。言ってみてダメだったら… そんな男はやめときゃいいわよ」

 酔っ払っている多美子は妙に力強かった。
麻貴、有紗、未知の3人は顔を見合わせて笑いをこらえた。
それからしばらく多美子は語り続け、突然眠ってしまった。

「あ~。この人、きれいだけど酒癖悪いんだ…」

「…みたいですね」

「あ、デザート、あるんですよ」

 有紗がグレープフルーツの入ったカスタードクリームのシューを運んできた。
そのうちのひとつが、眠っている多美子の顔の前に、供え物のように置かれていた。

To be continued…

★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。

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作者プロフィール

森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。 92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら

挿絵プロフィール

オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。 主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。

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