《4》
翌朝、未知はいつものように5時半に目を覚ました。
少し、頭の奥が痛かった。やっぱり酔っていたのかもしれない。やっぱりワインは自分のカラダには合わないかもな、と思った。
スマホを見ると、4人のグループに有紗からメッセージが入っていた。
「タミーさん 麻貴さん 未知さん 楽しい夜をありがとうございました。お食事楽しんでもらえてうれしかったです。まだお会いするのは2度目ですが、なんだかみなさんといると、昔からの知り合いだったような、不思議な感じがします。また近々に集まれたらうれしいです。お店は月曜がお休みなので、また誘ってください。もちろん、店にきていただいても歓迎です。またお会いできるのを楽しみにしています。 有紗」
有紗の優しくて柔らかい、なんでも許してくれそうな微笑みを思い浮かべると、未知は少しほっとした。でも多美子に駅まで送ってもらったこと、そこで思わず口走ってしまった「車が嫌い」という言葉が思い出されると、また少し気持ちが落ちた。
あれから11年も経つのに、自分はまだそこにいるのだろうか。
普段はすっかり忘れているつもりだった。それなのに、なぜ、そんなことを言ってしまったのだろう。そう思うと、積み上げてきた砂の山が足元からするする崩れていくような感覚に襲われた。
それと同時に、その感覚に、初めて面と向き合った自分にも気づいた。
… なんだろう。あの人たちって。
… でもなんだか、あの人たちといると、自分の新しい時代が来そうな気がする。
未知は、歯を磨こうと洗面台に立った。
電動歯ブラシに歯磨き粉をつけて口に入れた瞬間「あ、ミントだ」と感じた。意識してはいなかった。何気なく、本当に何気なく、自分はまだずっとこの香りを追い続けているのかもしれない。
口をすすぎ、顔を洗って、タオルで拭くと、鏡のなかに、昨日とはちょっとちがうトノムラミチがいる気がした。
未知はメッセージを打った。
「タミーさん 有紗さん 麻貴さん 昨日はありがとうございました。タミーさん、駅まで送ってもらってありがとうございました。とても楽しかったです。そしてお料理、美味しかったです。また4人で会いたいです。私もみなさんみたいに、おしゃれになりたいです。よろしくお願いします。 未知」
おしゃれになりたい、というところを、女らしくなりたい、とか、恋をしたい、とか書いてみて、結局、消してしまった。でも、どれくらいぶりだろう。未知にはそういう気持ちがやっとのことでほのかに芽生えつつあったのだった。
To be continued…
★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。
作者プロフィール
森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。
92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら。
挿絵プロフィール
オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。
主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。