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    第7話 『有紗の帰郷』

《4》

 離婚届をだし、すでに元妻となった女と少し電話で話した後、洋三と有紗は、王子公園のほうにある保育園に莉奈を迎えに行った。
 洋三によく似て眉と目鼻のはっきりした、おかっぱの女の子がやってきた。

「莉奈ちゃん、はじめまして、有紗です」

「おねえちゃんに挨拶しいや」

「… こんにちは」

 莉奈は最初、有紗を見て洋三の背中に隠れてしまったが、中華街の牡丹園別館で早めの夕飯を食べ、ルミナリエを見に歩き出す頃には「おねえちゃん」と呼ぶようになっていた。

 夕暮れが過ぎると、急に温度が下がり、有紗は小さくくしゃみをした。

「おねえちゃん、寒い?」

 莉奈が見上げて聞いた。大人を気遣うことに慣れている表情だった。母親と、新しい恋人と。その間で、一生懸命大人になろうとしているのかもしれなかった。

「ちょっと寒くなってきたね。莉奈ちゃんは」

「莉奈は寒くないよ」

 有紗は改めて莉奈の全身を見た。フリースでできたコートのようなものは着ているものの、スニーカー用のソックスと短い夏物のようなスカートの間の脚は白く粉がふいて、乾燥していた。傷んだスニーカーはベルクロもしまりがよくなく、大きなサイズへの交換が必要と誰の目にも思われた。明らかに、母親の娘への無関心が現れていた。

「莉奈ちゃん、本当はちょっと寒いでしょ」

「… ううん」

 莉奈はうつむいて、鼻をすすった。
 有紗は彼女の小さな手をとった。冷えて、がさがさしていた。有紗はたまらなくなって、両手でその手を包んで、あたためた。

「よし、お買い物に行こう」

 GAPへ行き、コーデュロイのスカートと紺色のタイツを着せ、ABCでスニーカーを買った。莉奈は頬を紅潮させながら、ちょっと怖がっているようでもあった。

 有紗が目線までしゃがんで言った。

「あったかいでしょ」

「…あつい」

 莉奈は洋三の手を握ったまま、その背中へ隠れてしまった。
 洋三が困ったような顔をして言った。

「あったかい、やろ。それにちゃんとありがとう、って言うんや」

 それが聞こえないように、莉奈はもはや洋三ではなく有紗の手を握り「ルミナリエ、行こう」と言った。

 

この世のものとは思えないほどまばゆい光のアーケードを、有紗と洋三と、真ん中に二人の手をつないだ莉奈が、歩いていく。

 

有紗と洋三は、同じようなことを考えていた。「話し合いより先に、気持ちがつながってしまったのかもしれない」と。

To be continued…

★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。

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作者プロフィール

森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。 92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら

挿絵プロフィール

オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。 主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。

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