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    第18話 『多美子の奮闘』

《4》

ひとつ、麻貴に想像できたのは、多美子が今、一人で戦っているかもしれないということだった。

「私にできることだったら、やりますよ。お花の話でしょう」

麻貴は頷いた。多美子のために、なんでもしたいという気持ちだった。自分があんなに辛かった夜も、一緒に飲んでくれた友達だから。
そして、こんな提案をした。

「有紗ちゃんに料理のレシピを書いてもらったらいいし、未知ちゃんにも…」

「… 鉄道の話かな」

二人は顔を見合わせて、ちょっと笑った。

多美子は小さくため息をついた。それを見て麻貴が言った。

「飲みにいきますか」

二人は連れ立って、渋谷の道玄坂を下ったところにあるワインバーに入った。

多美子は、新しい名刺を出した。

「かっこいいな、代表取締役って」

「代表取締役刑事、ってあったよね」

また笑っていると、目の前にふたつ、グラスのスパークリングワインが届いた。国内の、しかも広島で作っているという。

「乾杯」

ひと口飲むと、爽やかな酸味とぶどうの香りがした。

「でもさ、一人なんだよね、代表取締役って。岸場さんと二人でやっていけると思っていたんだけど、まあ本当に彼は何をしているのか、わからなくてね」

多美子は思わずそんなことを口にした。麻貴はなんとなくそんなことを、今日会ったときからの多美子の表情に読んでいた。

「でも、とにかく仕事があるんだし、タミーしかできない仕事じゃないですか。男は裏切っても、キャリアは裏切らないですよ」

「まだ裏切られたわけじゃないけどね」

「あ、すみません」

そう言って、二人はまた笑った。ちょっとほろ苦いけれど、二人だからこそ笑える話だった。

To be continued…

★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。

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作者プロフィール

森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。 92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら

挿絵プロフィール

オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。 主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。

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