ESTEBANの品は、どれもきつすぎない優しい香り。どんな国のどんな人にもどこか安らぎを感じさせるような、品のいい香りです。そこには何か、香りの国、フランスならではの秘密があるのでしょうか。
「いい香りとそうでない香りのバランス、というものがあります。それをESTEBANは、ピラミッドで表現するんですね。トップノート、ミドルノート、ラストノートの3段階です。トップが強すぎてラストがしっかりしていないと、上滑りな香りになってしまう。豊かに優しくラストノートが残る香りが、バランスのいい、品のいい香りになるんです。それを作り込んでくるところが、ESTEBANの能力。そこには目に見えない香りの哲学があって、じっくり時間をかけて取り組んでいるのです」
もともと、フランスと日本ではライフスタイルも気候も食べ物も違います。そこには香りの嗜好の違いもありそうですが。
「確かにわかりやすいオレンジやレモンなどの柑橘系は、日本では人気がありますが、フランスではそうでもありません。でもたとえばオレンジの花の香り、ネロリはどちらの国でも人気があります。違うところと重なるところがあるのです」。
フランスで大事にされている生活スタイルのひとつに、キャンドルがあります。
「フランスの家庭でディナーに呼ばれると、あんまり見えないくらいの暗さで、電灯をつけずにキャンドルを使っていたりします。若い人たちもそういう人が多い。それはやっぱり伝統的な生活スタイルなのでしょうね。日本人が仏壇やお墓、お寺でお線香をたく、それも宗教というよりはひとつの生活スタイルになっています。漂うもので人と空間や感情を共有する。それは日本人の文化なのだと思います」。
保科さんはESTEBANの仕事に関わり始めて、香りへの考え方が変わったと言います。
「香料の仕事に携わる人は、ひとつの香りに成果物、作品という意識をもっています。仕事というよりも、作りたかったものの最終形で勝負するという意識があるのです。ESTEBANと日本香堂のタッグによって、日本とフランス、そんな文化的な作品が世に出ていくことが素晴らしいと感じています」。
香りの文化の交流の結実。ESTEBANの作品はこれからも日本とフランス、そして世界の人々に新しい感動を提供していくことでしょう。
取材・文 森 綾 https://moriaya.jimdo.com/
撮影 ヒダキトモコ https://hidaki.weebly.com/