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    第137回:立木義浩さん(写真家)

《3》改めて向き合った東寺の仏像に感じたこと

 立木さんは、京都・東寺の仏像を1998年に写真集として発表しています。そして昨年、改めてその仏像たちに対峙しました。

「京都で開催した写真展で、昔出会ったお寺の方が見にきてくれて、四方山話の終りに、また東寺を撮ってくれませんかと言ってくださったんです。そんなことはなかなかないことなんですよ。国宝重文が沢山あるお寺で誰でも撮りたい寺院なんです。何かの取材で行っても寺宝の拝観後でないと撮影出来ませんし、冬の堂内は深々と冷え、静寂な空気が身に凍みる心地がします。」

 立木さんは、徳島県徳島市の出身。四国八十八ケ所の第1番、霊山寺は徳島にあります。

「四国八十八ヶ所も、東寺も、空海由来の場所。そういう意味でもこれは縁があるし、ありがたい仕事だと思いました。だってすごいよね、空海が入定して1200年。当時の祈りとは形が変わってきているかもしれないけれど、いまだにその信仰は続いているのですから。僕もそういうところの近くに生まれて、何か縁があるのかなと」

 しかし、98年の撮影より、今回は大変だったそう。

「講堂の21尊の仏さまによる立体曼荼羅は空海の意を汲んで壮観です。98年の写真集撮影では、須弥壇の上に上がらせてもらえたのですが、今回は三脚NG。ストロボの脚もNG。人力で持ってないといけない。講堂の中の仏さまは、大日如来を中心に、3ブロックは五智如来を中心に左に五大明王。右に五代菩薩、両端に三体づつの天部が安置されています。僕が見つけたのは、迦陵頻伽という五重塔の中の小さい仏像で、足が鳥で羽根がついている仏像。肉眼で見ていたら見逃したよ」

 獅子が取手になっている香炉。増長天立像。持國天立像。そのどれもが、立木さんの被写体になるとまるで魂が動き始めるように、ビビッドに写っているのです。

「僕は仏様とか、美術品とかいう尊厳はもちろん大事にしているけれど、そこを置いておいて、面と向かうんです。そういう意味では、仏を美術品としない。静物とは思わずポートレイトとして撮る」

 写真集『遍照東寺』は、実にエネルギーを感じる一冊なのです。

立木義浩さん

《4》もともとあった五感を頼りに。抑制できるのも人間の所業

 仏像と面と向かったとき、立木さんは「お香が役に立つ」と思ったと言います。

「白檀や樹木の香りは、そういう本当に魂のあるものと繋がっていますね。栴檀は双葉より芳しと言いますが、凡人は大器晩成を願いますね。そういう自然から生まれた香りの力はつくづく感じます。西洋の香水とはまた違いますよ。だって森に住んでいる人は香水を使わないでしょう。自然に生きている動植物に合わないもの」

 日常でも、立木さんは香りを上手に使っているようです。

「事務所に人が来て、帰って、また誰かが来て、という時に、セラミックのオブジェに香りを染み込ませて歓迎します。エステバンのPINを使っています。」

 魂あるもの。それは人間だけではありません。博学な立木さんは「人間の嗅覚は大したことがないらしいよ」と、にっこり。

「象の脳の3分の2は、匂いに関する情報をもとに動いているという話があるんです。ライアル・ワトソンの『エレファントム〜像はなぜ遠い記憶を語るのか』という本があるんで、読んでみて。象はね、死んだ象の骨を触って、嗅いで、遠い記憶を思い出すと書いてある。そして、亡くなった象に草をかけたり土をかけたり、埋葬の行為をするらしいんだ」

 その本には、仲間が死に、たった一頭になった象が、超低周波でシロナガスクジラとコミュニケーションを取る話も出てきます。

「人間は自分たちが一番偉いと思っているでしょう。ホーキンス博士は『オーバーテクノロジーでこの星は壊滅する』と警告した。まさにそこに向かって進んでいる気がしてつらいね。もうそろそろ、象のようにもともとあった五感を頼りにした方がいいね。抑制をかけるというのも人間の仕業。含羞、という気分が残っていないとね」

 私たちはこれまで、知らず知らずのうちに、おそらく立木さんの写真をさまざまな場所で見ています。圧倒的に撮り続ける人は、人間の根本を悟って、なお日々の瞬間を撮り続けています。
立木さんは、写真以上に、そこにある生と向き合い続けているのです。

立木義浩さん

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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影 初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。
東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞、2022年林忠彦賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
近著はこちらから


2022.7.6 written by 森綾
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