窯の周りは火をたく木の香りや、土の香りが漂います。
「図工室の香りがする、と言われますね(笑)。土は陶土と呼ばれる粘土質のものなので、いろんなものが混じり合っています。赤土は鉄分が多く、白土は鉄分が入っていません。縁などエッジの部分が茶色くなるのは、赤土の影響なのです。 土は大地の香り。私はすごく好きです」
笠間に弟子入りしていた頃から、土とともに暮らしてきた岡崎さん。先生の家の近くに平屋の一軒家を借りて住んでいたそうです。
「その頃、気持ちをリフレッシュさせるためによくお香をたいていました。洋風なコーン型のものがはやっていたので、イランイランとか。先生のところで、焼かない土の状態で香立てを手作りしていましたね。急須の裏のような円盤に穴を開けて。焼かせてもらうのは悪いなと思って、土のまま持って帰って、使っていました」
修行中の思い出の香りがもうひとつありました。
「先生の仕事場に『室』と呼ばれる場所がありました。焼き物を急に乾燥させないように入れておく場所なのです。そこはいつも湿度を高くしてあって、地下のワインセラーのような、どこかカビっぽいような、なんともいえない湿りけの香りがありました」
その4年半は、岡崎さんの人生でまさしく「室」にいるような時間だったのかもしれません。髪が伸び、あたたかい家庭を得た今、それでも土の前で集中するときの岡崎さんはきっと当時と同じ緊張感で作品と向き合うのでしょう。
✳︎岡崎裕子公式ホームページ http://yukookazaki.com/
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 ヒダキトモコ
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