もちろん、戸賀さんは男性ファッションのなかでも、香りの位置づけを重要に捉えています。
「学生時代はサーファーの間ではやっていることは間違いなかったから(笑)。髪を脱色して、日焼けして、マルボロの煙草にムスクのフレグランスだよね。でも僕はムスクよりポーチュガル4711あたりの、柑橘系の爽やかな香りも使っていました。すぐ消えちゃうけど、それが良いこともあったし」
バブル時代以降、男女ともにフレグランスにも流行がありました。
「その時代の日本人って、同じ服、同じ香りになりがちだった気がしますね。全員、ラフルローレンのポロシャツにカルバンクラインのCK one、みたいなね。TPOも気にせず、香りは同じとか。僕は生意気にもそれは違うと思っていたんですよ」
だから戸賀さんは今、香りをこんな風に使い分けています。
「カジュアルな服のときには残り香も強いような重厚な香りで締める、とか。ビシッと決めた服のときには、すぐ消えてしまうような軽い香りにするとか。そこで、気負いのプラマイをゼロにもっていく、という感じかな。見た目と香りを同じにするより対局にするほうが、良いように思うのです」
軽い香り、のなかにはややフェミニンな香りも含まれているよう。
「女性のつけるユニセックスな香りを使ったりもします。女性に『とがっち、いい香りがする』と言われるときは、そういう香りのことが多い。しめしめ、と(笑)」
そのとがっちコンセプトは、空間に漂わせる香りにも生きているようです。
「僕はゴージャスな車が好きなのですが、そういう車って、ちょっと引かれるじゃないですか。ほら、マクラーレンとか扉が上にあがるようなとか、ね。妻は慣れていますが、他の仕事関係の女性を送ったりするときには『えっ』って感じでしょう? だから、それを中和してくれるような軽めの香りを漂わせています。
アンバーやムスクでは『えっ』が相乗されるので、あえて柑橘系とかね」
なるほどそれが香りの「エロジュアリー」の極意かもしれません。
しかし、派手なイメージの戸賀さんには、しっかり地に足のついた一面もあります。
「今は家にいるので、1日3回、仏壇に手を合わせています。おふくろの先祖が眠る羽田の正蔵院にも、月に1度は墓参りにいきます。線香に火をつけるのは、なぜか子どもの頃から僕の仕事でした。もちろん、今もです。その行為は気分がいいのですよ」
このインタビューは電話で行いましたが、戸賀さんは事前にきちんと要点を書いて送ってくださいました。
華やかに楽しくモノを見せるワザと、質実なサービス精神のある戸賀さんのサジェスチョンは、これからも時代を率いていくことでしょう。
戸賀敬城(とがひろくに)
1967年、東京生まれ。学生時代からBegin編集部(世界文化社)でアルバイト、大学卒業後にそのまま配属となる。1994年Men’s Ex(世界文化社)の創刊スタッフ、2002年Men’s Ex編集長に。2005年時計Begin(世界文化社)編集長、及びメルセデスマガジン編集長兼任。2006年UOMO(集英社)エディトリアル・ディレクター就任。2007年4月に10代目『メンズクラブ』編集長に就任。2016年10月に創刊した『Esquire The Big Black Book』の編集長も兼任。2017年5月より独立し、ハースト婦人画報社のメンズ メディア ブランドアンバサダーを務める。現在、オフィス戸賀の代表取締役。GDO社『ブルーダー』、BRオンラインの顧問を務める。
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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