それにしても林さんの作る楽曲はどうしてこれだけたくさんの人の心に残るのでしょう。特に80年代のヒット曲をリアルタイムで聴いた世代には、自身の思い出とともにしっかり根付いている気がします。
「メロディ、和音、リズム。結局はその音の三要素の組み合わせなのだけれど、それは人間の感情のなかで生まれてくるものです。たとえば僕と20歳の人が書く曲はきっとまったく違ってくる。どちらがいいということではなくて、その人が生きているなかに経験としてインプットされているものがすべて出てくるのです。若い人には若い人の経験のなかから出てくるものがあるのですね。だから、曲というのはとても個人的なものなのです」
若い世代の作る曲に、林さんは面白い発見を見ました。
「世の中では、若い人には日本語の言葉数が少ないと嘆く人がいますが、なぜか歌詞を見ているとけっこう長いんです。言葉がいっぱい入っている。これはラップの影響もあると思います。我々の世代のほうが、少ない言葉で行間や余韻を味わえたのですが。しかしその長いラップ風の歌詞も過渡期に来ていて、またメロディ回帰もあるかもしれない」
林さんは、音楽の未来を憂えてはいません。
「CDが売れない、配信の時代になったと言われます。でもそれは音楽の聴かれ方やビジネスの有り様が変わっただけで、私たち人間にとって、音楽が不必要になることはないでしょう。日々の生活のなかで、人生を生きていくなかで、必ず永遠に音楽はともにあると思いますよ」
嬉しいとき。悲しいとき。憤るとき。楽しいとき。私たちはこれからも音楽とともにそれを誰かと分かち合い、あるいは一人でかみしめていくのでしょう。それだけで人生は相当豊かなものに思えてきます。
(撮影 上平庸文、インタビューと文 森 綾)
●1月16日19時から、︎林哲司さんと売野雅勇さんのトークショーが渋谷リビングルームカフェで開催されます。詳細は下記リンクよりご覧ください。
残席は僅かのようですので、渋谷リビングルームカフェのサイトからお問い合わせを
※満席ですが、モニターで見る席の当日券のみ若干あり
>https://livingroomcafe.jp/event/urino0116
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 上平庸文