小仲 中原さんには、いろんなビジネスのシーンがあると思いますが、その時、その場によって、問題意識とか、興味あることがあると思うんですが、今、一番関心のあることは何ですか。
中原
そうですね。今、自分以外の人が創始した会社の代表をしているんですが、なんて言うのかな、例えば「いい」という感覚、価値観を伝えるのは、非常に難しいです。
「これは本当にいいものだ」ということを、どうやって伝えるんだろう。どういうふうにしたら伝わるんだろうと、思い直しました。
それは社会に対しても初めて思い直しましたね。ある意味、政治に近いのかなと思ったりするときもあるんですが、どうやって世の中に「これは本当にいいものだ」と伝えるかということ。
すごく悩みます。押し付けてもたぶん嫌がられるし。
きっとそれぞれ発見してもらうのがいいんですね。でも「いい」を発見しいてもらうってどういうことかと思うと、また悩みます。
共有するのが一番いいと思うんですけど、それがまた完全に共有する時間を全員と取るわけにはいかない。
どうやって共有の連鎖を生んでいけばいいんだろうな、とすごく考えます。
この「いい」という感覚をみんなが共有していると、要領も良くなるだろうし、会社もよくなるだろうし、だから小さい単位のところからそれを始めなきゃいけないと思うのですが。
そこに一番、四苦八苦しながらも、楽しんでいます。
小仲
中原さんが立ち上げたランドスケーププロダクツの時は、その中原さんの価値観に共感して、皆さん入ってきていたんでしょうからね。コンランショップョップというのは、元々あったところに入ってこられているんですものね。
中原さんの「いい」と思うことって、例えばどういうものでしょう。
中原
まあ、本当にさまざまなんですね。これ一つというのはなかなかないです。
基本は「もの」ですよね。で、その環境にうまく合っている「もの」だったり、そこで、ちゃんと、もともとのものをリスペクトしている「もの」だったり、
いろんなパターンがあると思うんです。それらをちゃんと受け入れて、ちゃんと1つの景色になっている「もの」は素晴らしいなと思います。佇まいとしても。
やらされてる感じじゃなく、パフォーマンスで作られたものでもなくて、ちゃんと「そこにあるものとしてある」というものは、いいなと思います。
小仲 歴史的な意味があったり、ストーリーがあったり。
中原
そう思いますね。自分が惹かれるものを見ていると、結果としてそういうものですね。
完全に完成してていいっていうだけでもなくて、途中段階でもいいものもあったりするし。
小仲 「もの」を見るときに、しっかり解釈するということが大事だということですか。
中原 そうですね。何に自分が引っかかったのかなと分析すること。その辺は大事なことかな。
小仲
今日は中原さんが主宰されている「キュレーターズキューブ」というギャラリーに伺っているんですが、他では見られないような面白い展示ですね。
「他にはない」ものに対するニーズは強いのでしょうね。
中原
そうですね。変わったもの、なんか、自分だけの発見っていうか、自分だけの出会いとかって求めてる人は多いなと思いますね。それはすごく感じます。
そういう人がここに来てるんだと思うんですよ。なる、通常のギャラリーじゃなくて。
小仲 中原さんの目線で共感したものを、きちんと伝えていくというのが手腕ですね。
中原
キュレーターズキューブ以前は、千駄ヶ谷のプレイマウンテンで、自分たちのオリジナルの家具を販売しながら、アメリカの当時無名だったアーティストの作品を日本で紹介してきたのですが、それも面白いタイミングだった。そういう人たちが、その後育って、スターのようになっていきました。
そういう下地をつくった後にキュレーターズキューブをスタートしたので、今までにないものを見せてもらえるという感じを、みんながようやくちゃんともってくれているのかなと思います。
ここに至るまで時間がかかっていますし。それこそ、プレイマウンテンで始めたのは、2000年ですからね。
小仲 長い間のライフワーク。そういう繋がりが今まで続いて来ている。その結晶の場ということですね。
中原
クラフトとプロダクツを比較したときに、例えば、実際に一つのプロダクトを1個何百円にすることはできるかもしれないですけど、その代わり、ものすごい投資が必要で、型代があって、いろんな広告宣伝費も必要になる。でも、クラフトで300円のものはつくれないけど、3000円とか10000円のものを1個でつくることができるんです。
1個で作れるってすごいことですよね。
プロダクトは1個だけは作れない。ものすごいお金が投資されないと作れない。でも、クラフトはそれを1個で成り立たせることができるっていうところに面白さがあるなと思うんですよね。
小仲 最後に中原さんが「1個」とか「希少性」、「他では出会えない」ものの意味を語ってくださったことが、今の世の中の変化においても重要な点に感じました。本当にお忙しいところ、ありがとうございました。
中原
こちらこそありがとうございました。
香りも、毎日、自分の気持ちが浮き沈みにあっても、ひとつの自分を保つために、嗅ぐものであったりしますから。香を聞くという行為が、ひとつの景色を作ることでもある。
なんかそういうのが大事かなと。
ちゃんと行為に繋がるっていうのは面白いと思います。
対談時にクリエイターズキューブで展示されていたのは、三重県在住の藤本玲奈さんの作品。
定期的に数年ごとに展示されている。
自身が素材として気になるものを転がしておきながら、それを発想の源として、絵を書いたり、その素材同士を組み合わせた立体アートにするという。
中原慎一郎さんプロフィール
株式会社コンランショップ・ジャパン 代表取締役。
1971年鹿児島県生まれ。「ランドスケーププロダクツ」ファウンダー。
東京・渋谷区にてオリジナル家具などを扱う「Playmountain」、カフェ「Tas Yard」などを展開し、家具を中心としたインテリアデザイン、企業とコラボレーションしたプロダクトデザインも行う。
2022年4月に株式会社コンランショップ・ジャパンの代表取締役社長に就任。
株式会社日本香堂ホールディングス
https://www.nipponkodo.co.jp/company/
構成・森綾(フレグラボ編集長)
撮影・萩庭桂太