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    第7回:熊谷直久さん・畑元章さん・小仲正克社長

白いお線香を復刻。その過程で色に挑戦してきたことがわかった(畑)

 弊社は製造面の歴史の方に焦点を当てようと思っています。創業から現在まで烏丸二条でものづくりをしていまして。昔ながらの手作業と業界初の産業ロボットも取り入れています。
 今回、それぞれの社で限定商品も出しますが、それはぜひ手に取っていただきたいものです。松栄堂からは「白楽(はくらく)」という昭和後期の白いお線香です。いわゆるお線香の色は緑色が多いと思うんですが、天然香料で白色のお線香を作れないかというのに注力していたんですね。これがなかなか製造面で難しくて、発売してしばらくして終わってしまっていたらしい。でもそれを研究した結果、その後にいろんな色が展開できていくっていうことにも気づきましたので、それを復刻したいと思いました。
 その復刻過程で商品整理していると、古いお香とかも出てきました。そういうのはいろんな色をつけてはったんやなっていうのもわかってきました。それで、お線香のいろんな色に挑戦してきた時代があったというテーマを、掲げたんです。

白楽

小仲  確かに白は珍しいですね。

 そうですね。現存する商品のなかで考えると、肌色に近い商品だったのではと想像したのですが、今回改めて当時のレシピで再現してみると、ちゃんと白だったんだ、とわかりました。保存の間にくすんでいたんですね。
 製造技術の面でも、今、当時に比べて機械も変わっていますので、改めて作ると、また新しい発見がありました。

小仲  松栄堂さんもたくさん昔のパッケージが残っていますよね。それらも展示されますか。

 はい、色が一つのテーマなので、パッケージも見ていただけたらと思っています。

小仲  あの頃の商品は魂が込められてているし、ガツンときますね。
 積極的に海外に出されていたんですよね。

 そうですね。昭和初期ぐらいには本格的に海外に向けてつくっていました。それも最近改めて残っているものを整理し始めた結果、わかってきたことなんですけど。アメリカのシカゴ万博に出品していたり、ヨーロッパへも京都の他の物産品と一緒に輸出されていたという記録が出てきました。
 地元の印刷会社が「昔のラベルが出てきたんですけど」と持ってきてくれたのですが、完全英語表記しかなくて、舞妓さんが踊っていたり、五重の塔や関取がラベルになってるとか。どこにも松栄堂とは書いていないので「これはほんまにうちの品物か」と思ってしまいましたが、松栄堂の商品と一緒に保管されていたラベルは大量に引き取りました。手を変え品を変え、必死な時代があって、そのおかげで今があるのですから。

小仲  特に今に無い色使いとかね、独特ですよね。

熊谷  今見るとやっぱりなんとも可愛らしいです。

小仲  熊谷さんのところがすごいと思ったのは、昔のそういうパッケージとかが見本帳みたいになってるんですよ。
 京都の組合に入られている様々な会社のパッケージが分厚い本になっていて。それを見ると、その当時の業界や時代背景などに、思いを馳せますね。

 日本香堂さんは「花の花」の限定版を出されますね。

小仲  「花の花」は、1900年…明治の後期に生まれました。当時は文明開花で、日本の古来のものがなおざりになってしまったようでした。前身の鬼頭勇治郎という調香師が、「香水香・花の花」という、西洋の香料を使ったお香を出したんですよね。
 今回はそこから引き継がれている香りと特別に調合し直した令和に生まれた香りを組み合わせてセットしました。

花の花

熊谷  うちは昭和初期から製造販売している『線香 白鳩』を当時のパッケージで限定復刻します。

白鳩

小仲  皆さん、アイデアを準備をして形にしていく様が本当に楽しい。打ち合わせして1ヶ月後くらいに出来上がるのが素晴らしい。 絵が形になっていくんですよね。

線香の技術が伝わってきた原点には、火がある。そこを大切に残していきたい(畑)

 僕がすごくありがたかったのは、みなさんが火を付けて使うお香を大事に考えてくださっていたことなんです。

小仲  そこは原点ですからね。読者の皆さんのために補足しておくと、会期中の4月18日に「お香の日」というのがあります。これは約1400年前の4月に淡路島に香木が漂着したことが日本書紀に記されていて、「香」という字を分解すると一・十・八・日と読めることから、4月18日になりました。
 たまたまその香木を焼いてしまったところ、ものすごくいい香りがしたという。
 香り文化そのものは飛鳥時代に仏教伝来とともに始まったとされています。
 平安貴族が香りを楽しむために薫物を調合し、その後、武家社会では禅思想と結びついて香道が確立しました。

 日本でそういうふうにずっと培われてきたお香が、火や炭とともにあったんですよね。そのお線香の技術が伝わってきた原点には、火があり、そこを大切に残していきたいという思いが、もちろんあります。
 ただ同時に居住環境とか、建物の設備もどんどん変わってきていますので、そういうなかで次の提案をどうできるかいうことも大切です。
 そういう状況のなかで、独立独歩でそれぞれの会社が頑張ってきました。今回、小仲さんが熊谷さんと一緒に声をかけていただいて、私どももありがたい機会だったなと感じています。

小仲  なんか火をつけるものってネガティブに思われがちですが、例えば煙1つとっても、その煙の動き方をどう捉えるかとか、あるいは、灰の落ちかたに時間の流れを感じるとか。火をつけるお香には、お香ならではの良さがあったりするのかなと思います。
 そういうことを松栄堂さんはこだわって大事にしていらっしゃると思いますね。

 今、自分たちができること、あるいは今までしてきたことをどう新しく提案できるかが大切じゃないかと思っています。

小仲  「香り博」で店舗へ足を運んでもらうことで、香りの世界がもたらすゆたかさを体感してもらえるといいですね。

〜part 2へつづく

香り博

「香り博」
2024年春、初めての開催となる香りの体験イベント。

テーマは『Origin of fragrance(香りの原点)」
東京、京都にある香りにまつわるお店が一体となり、4月18日の「お香の日」を中心に1ヶ月開催。
香道を体験するワークショップや、限定商品の発売、各店が所蔵する一般非公開の歴史資料の展示で盛り上げる。

  1. 3/3

鳩居堂京都
鳩居堂製造株式会社
代表取締役社長 熊谷直久
1975年、京都生まれ。2011年から代表取締役社長。
本人画像は非公開としている。
鳩居堂は1663年、薬種商から創業。1700年頃より薫香、線香を製造販売。

松栄堂京都
松栄堂
専務取締役 畑元章
1981年、京都生まれ。
2018年から専務取締役。
松栄堂は創業300年余。3代目から本格的に香づくりを始め、以来、12代目に至る今日まで続く。

日本香堂銀座
株式会社日本香堂ホールディングス
代表取締役社長 小仲正克
日本香堂、香十天薫堂、ESTEBANなど、仏事、フレグランス、不動産関連事業10社の持ち株会社。
日本香堂は天正年間創業。来年で450周年を迎える。宮中御用を務めた香の専門職「香十」より脈々と続く調香技術を受け継ぎ、現在に至る。
https://www.nipponkodo.co.jp/company/


構成・森綾(フレグラボ編集長)
撮影・萩庭桂太


2024.4.18 written by 森綾
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